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[WBS]保守党党首選!イギリス次期首相はトラス外相

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イギリスで次期首相となるリズ・トラス外相。イギリスでは日本時間の9月5日に与党・保守党の党首選でトラス氏の勝利が宣言されました。新党首への就任によってイギリスで3人目となる女性首相が誕生することになります。その人柄や政治姿勢への注目が高まっているようです。新首相の誕生を受けた現在のロンドンの様子はどうなっているのでしょうか。

イギリス次期首相トラス氏

勝因は「仁義の厚さ」

ロンドン支局
中村航記者

イギリスの政治の中心地、ウェストミンスターに来ています。いまは静かですが、先程までEUにイギリスの人は戻りたいと思っているグループ、トランプ氏の支持者など抗議活動をしている人たちが保守党党首選に合わせて集まっていました。
トラス氏とスナク前財務省との党首選となった結果、トラス氏が57.4%の投票で勝利しました。9月6日に正式に首相に就任します。

トラス氏が次期党首に選ばれた。

トラス次期首相

私たちは今後2年間で実現できると示す必要がある。
税金を削減し、経済を成長させるための大胆な計画を実行する。
私はやり遂げる。やり遂げる。やり遂げる。

トラス氏が勝利した要因は何なんでしょうか。

ロンドン支局
中村航記者

勝敗のカギを握ったといわれているのが辞任に追い込まれたジョンソン首相の支持者たちです。

スナク氏はジョンソン内閣の財務相でしたがジョンソン氏の度重なる不祥事を理由に抗議の辞任に踏み切りました。これが首相退任につながる官邸スタッフの大量辞任ドミノの引き金になったため、ジョンソン氏の支持層からは裏切り者とみなされました。

一方のトラス氏は最後までジョンソン氏を支持したことで仁義に熱い人と評価され、今も多い党内のジョンソン首相の支持者から支持を集めました。

ただ首相になると党内だけでなく国民からも広く支持を得る必要があります。現在、保守党の支持率は31%、最大野党の労働党が39%と溝を開けられていて厳しい状況です。

支持率が低い上に地元紙では「乗り越えないといけいない障害がこれほど大きい首相は近年いない」とまで報じられていて、トラス政権は今後さまざまな課題に直面します。

「鉄の女」再来か!?

新たに首相となるリズ・トラス氏(47歳)。オックスフォード大学を卒業後、管理会計士の仕事を経て2010年に国会議員に。

ジョンソン政権では貿易相としてEU離脱後のイギリスにとって大切な日本との経済連携協定をまとめました。

大胆な経済政策や強硬な政治スタイルから比較されたのはサッチャー元首相。鉄の女の再来とも称されています。

そのトラス氏が首相として向き合うのがインフレ対策です。イギリスでは7月の消費者物価指数が1年前と比べて10%以上上昇。

この秋には1世帯あたりのエネルギー価格が平均で年換算56万円に。来年春までに100万円を超える可能性もあります。

トラス次期首相(9月4日)

もし私が首相に選ばれたら1週間以内にエネルギー料金の問題とこの国を正しい状態にするため長期供給をどう対処するか必ず発表する。

物価高と絡み深刻なのが労働争議。イギリスでは大規模なストライキが頻発しています。

なにを求める?正当な賃金だ!いつほしい?いまだ!
なにを求める?まともな仕事だ!いつほしい?いまだ!

鉄道業界だけでなく、航空業界や郵便局員のストライキなど運動は拡大しています。

トラス氏はストライキによる交通機関などのストップの影響で経済が麻痺することを避ける目的でストライキの実施要件を厳格化する姿勢を示しています。

ただこれは労働者の権利の行使を妨げかねない強硬な施策とも受け止められ、鉄の女の再来といわれる所以です。

さらにジョンソン首相の置き土産ともいえるのが北アイルランド問題です。アイルランド島の北部にあるイギリス領北アイルランド。イギリスのEU離脱後、物資が円滑に届かなくなりました。

精肉店に行くとイギリス北部で生産されたベーコンを扱っていますが…

北アイルランドの精肉店
スティーブ・アームストロングさん

イギリス本島からベーコンが6週間も届かなかった。今は落ち着いているが。
イギリス本島の業者は北アイルランドに製品を送りたがらない。
「北アイルランド議定書」のせいだ。

実はEU離脱に伴い、イギリスとEUが結んだのは北アイルランド議定書。議定書はイギリス国内であってもロンドンなどがあるグレートブリテン島から北アイルランドに物品を移動させる場合、EUの法律に基づき通関などの手続きをするように定めています。

トラス氏これを問題視。議定書を北アイルランドで使う製品は手続きなどなしで移送できると修正しようとしているのです。

トラス次期首相

わたしは問題解決のためにEUと懸命に働いたがこの状況を放置できない。

しかし、EUはイギリス側の修正案は協定の一方的な破棄で「国際法に違反する」と反対していて、貿易戦争に発展するリスクも。

北アイルランドの一般市民は…

北アイルランドの市民

現在のEUの取り決めは受け入れられるもの。

北アイルランドの市民

両方とも強引なところがある。現実的な形に落ち着くのを祈るだけ。

EU側との協議を一歩間違えると北アイルランドの中でイギリスとの一体性を重視するグループや独立を目指すグループをそれぞれ刺激し、かつてこの地で起きた紛争が再び起こる危険性もはらんでいます。

「鉄の女」再来!?手腕は…

首相に就任する前からとても難しい課題が山積しています。このトラス氏の新政権はどのような政権運営を目指すことになるのでしょうか。

ロンドン支局
中村航記者

トラス氏はジョンソン首相を最後まで支持し続けただけあって、多くの政策を前政権から引き継ぐことになりそうです。
例えばウクライナ情勢について、トラス氏は以前から強い支援を訴えていて、ロシアに厳しい制裁措置を取る姿勢も一貫しています。
ジョンソン首相のように3度もキーウを訪問するというパフォーマンス的な面は減るかもしれませんが、大きくは変わりません。

一方で経済対策は少し踏み込むことになりそうです。まずは年間4兆8,000億円規模の減税で生活を向上させる政策を訴えています。また来年予定していた法人税率の引き上げの凍結やエネルギー高騰の影響を受ける企業への支援策も実施する予定です。

トラス次期首相

大胆な供給サイドの改革で10年で高成長国にする計画だ。

眼の前のインフレや経済対策への関心がかつてないほど高まっているため、就任直後で高い支持率が維持できるハネムーン期間からすぐに行動に移していくことを余儀なくされます。

トラス次期首相は9月6日に就任、1週間以内にエネルギー対策を、1ヵ月以内には大規模経済対策を発表するという慌ただしい船出となりそうです。

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