製薬大手のエーザイがアメリカのメーカーと共同開発したアルツハイマー病の治療薬。
アメリカでは販売が承認されましたが、EU(ヨーロッパ連合)では認められず評価が分かれています。
この薬について厚生労働省は12月22日に日本での承認について審議しました。
"世界初"アルツハイマー病治療薬!
どんな薬?効果は?
エーザイとアメリカのバイオジェンが共同開発したアデュカヌマブ。
アルツハイマー病の原因物質を取り除く世界で初めての薬です。
現在、国内では認知症の人がおよそ600万人いるとみられています。そのうち6割はアルツハイマー型。主な症状は記憶力や理解力の低下で、進行すると日常生活に大きな支障を及ぼします。
なぜそうした症状が起きるのか、専門の医師が見せてくれたのはアルツハイマー型認知症にかかった患者の脳の画像です。
湘南いなほクリニックの内門大丈院長。
MRI(磁気共鳴画像装置)で輪切りにして下から見上げたところ。
ここに側頭葉の海馬傍回というところがある。
黒く映っているのが側脳室。若い人には黒いところがほとんどない。
黒い部分は脳が萎縮してしまっている状態。人の記憶を司る海馬傍回という部分から萎縮が始まり、脳の皮質全体に広がります。
その原因はアミロイドベータと呼ばれる異常なタンパク質。アミロイドベータが脳の神経細胞を壊すためだと考えられています。
今回の新薬「アデュカヌマブ」はアミロイドベータを取り除くことで神経細胞が壊れるのを防ぎ、病気の進行を抑えるというのです。
日本の判断は…「継続審査」
世界初の治療薬として期待される中、12月22日に日本での承認について審議が行われました。
厚労省担当者。
現時点で得られたデータから本剤の有効性を明確に判断することは困難。
厚生労働省の専門部会は現時点ではアルツハイマー病の治療薬として承認すべきではないと判断。継続審議としました。
前提となっているアミロイドベータを減らすことが症状の改善につながるという仮説が科学的に証明されていないことを指摘。
さらに申請の根拠とされた2つの国際的な治験の結果に一貫性がないことから、今のデータでは有効性を判断できないとしています。
加えて薬の投与によって脳の腫れや出血などが見られることも問題とされました。
一方で…
薬剤としてのポテンシャルはあるのではないか。
治療薬として有効な可能性もあるため今後、追加のデータが提出されれば改めて審議する方針です。
軽度のアルツハイマー病患者の下坂厚さんはこの結果について…
可能性としては治療の見込みがないと言われている認知症に対して一筋の光が見えた、希望ができたというのはあるが。
それが承認されなかったといって落胆するわけでもない。
新薬とか今回の薬以外の治療法とかも専門家の医者に任せていけたら。
海外では判断分かれる
今回の新薬はアメリカとヨーロッパで承認をめぐる判断が分かれています。
アメリカでは今年6月に新薬を承認。しかし、一部の治験で十分な効果が確認できなかったとして追加の検証試験で有効性を示すことが必要な条件付きの承認となりました。
医療機関からは薬の有効性への疑問から使用をためらう声も多く聞かれます。
さらに普及には別の課題も…
新薬を開発したバイオジェンの本社前で抗議するのは患者の家族。
掲げているプラカードには…
おばあちゃん。おじいちゃんからお金を盗むのをやめて
患者の家族が批判しているのは新薬の価格の高さです。
年間およそ600万円という価格が普及の大きな壁になっています。
こうした問題を受けバイオジェンは20日、アメリカ国内での価格を半額にすると発表しましたが、新薬が普及するかは不透明です。
一方、EU当局は17日に新薬の販売に関する承認の見送りを勧告しました。
日本で承認への課題は…?
日本の継続審議という決定について新薬の研究開発に詳しい日経バイオテクの久保田文さんは…
中間かな。ヨーロッパは審査終了になった。
日本の厚労省は「継続審議」。これで終わりじゃないと。
ただ再び審議され、承認されるまでには時間がかかるといいます。
1つの参考例はアメリカの迅速承認の条件となった臨床試験。
始まると結果は2026年と言われている。単純計算で5年後。
数年掛かる可能性はあるが、改めて再度審議の可能性はある。
一方でアデュカヌマブがアルツハイマー病の研究にもたらした意味は大きいといいます。
今回の結果でダメなんだという単純な事じゃないと伝えたい。
製薬企業がさまざまな薬を開発している。前向きに状況をとらえている。
エーザイはバイオジェンと共同声明を出し「追加データについて前向きに競技を行ってまいります。本剤を1日も早くお届けできるよう最善を尽くしてまいります」とコメントしました。