過重労働撲滅特別対策班
2015年4月、東京・千代田区にある合同庁舎ビル。
この日、厚生労働省である組織の発足式が開催されました。
彼らは一体?
潮崎恭久厚生労働大臣、
経験豊富な精鋭である皆さんの活躍に大いに期待を申し上げたい。
その名も過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」。
長時間労働が社会問題となる中、取り締まりの専門チームを作ったのです。
彼らは労働基準監督官。警察官と同じような捜査権を持ち、逮捕なども行えます。
発足から3ヶ月後の2015年7月には靴の大手チェーン「ABCマート」を違法残業で摘発。書類送検しました。
その「かとく」にガイアがメディアで初めて密着取材を行いました。
次なるターゲットは、
被疑者についてですが、法人としての「ドン・キホーテ」。
あの日本最大級の総合ディスカウントチェーン「ドン・キホーテ」です。
「かとく」の捜査員たちは長時間労働の実態を掴み取るため店舗を内偵調査。
いた、彼だ!
従業員たちが違法に働かされている現場を抑えます。
さらに会社の内部文書を押収。
決定的な証拠を掴むことに…。
かなりの人数が超過労働しているのは間違いない。
摘発まで密着10ヶ月。
国が本気で長時間労働の撲滅に動き出しました。
かとく
東京・千代田区にある合同庁舎ビル。
厚生労働省・東京労働局の中に過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」の部屋があります。
違法な長時間労働を行う企業を専門に取り締まるため2015年に東京と大阪に発足しました。
7人の捜査員を取り仕切るのは課長の樋口雄一さん。
難しかった事案や大規模な事案について組織でもって専従班として対処できるのが強み。
全国には労働基準監督署が約300あります。
そこで対応しきれない大企業の事案を東京と大阪の「かとく」が受け持つことになったのです。
これまでにABCマートや大手飲食チェーンのフジオフードシステムを労働基準法違反の容疑で書類送検しました。
この日は新たな捜査対象について話し合いが行われます。
その企業とは…。
株式会社ドン・キホーテ
ディスカウントショップを全国に262店舗展開している。
非常に問題が多い会社で時間外労働が恒常的に認められる。
「かとく」が次に狙いを定めていたのはディスカウントチェーンのドン・キホーテ。
電化製品から化粧品、食料品まで4万点を超える商品数の多さと激安価格が売り。
深夜も営業していて年中無休なことも人気の秘訣です。
平成元年の創業以来、売り上げは右肩上がり、グループ全体で現在6,800億円を売り上げています。
しかし、その一方で長時間労働の問題が浮上していました。
会社が従業員と結んだ労使協定。3ヶ月で120時間までの時間外労働が許されています。
しかし、それを大きく上回る時間を働かせていたとして全国の労働基準監督署から41件もの是正勧告が出されていたのです。
それでも一向に改善されないため、ついに「かとく」のメンバー、宮地剛史さん(38歳)が捜査に動き出しました。
宮地剛史さん
監督官として16年のキャリア。
早朝6時、一体どこに向かうのか?
残業時間が特に長いという情報を持っていて、そこの一つの店舗にこれから内偵に行く。
車を走らせること1時間、
あれですね。
見えてきたのは東京のとある店舗。
ドン・キホーテの中でも特に長時間労働が疑われている店です。
開店は10時から、従業員の出勤時間をチェックするため駐車場から見張ります。
赤い扉が従業員の出入り口。
待つこと20分、
誰か来た。
朝一番に来たのは白いシャツの男性。
入りました。7時21分。
その後も多くの従業員が開店の2時間以上前から出勤していることを確認しました。
宮地さん、今度は店の裏に回ってみます。
そこでは商品の荷降ろし作業がひっきりなしに行われていました。
業者がバンバン来ていたから、荷をさばくのに忙しいんでしょう。だから開店の2時間半前。でないと開店ができない状況。
この店の営業は朝10時から翌朝5時までの19時間。
開店と同時に大勢のお客様が店内に。
宮地さんも勤務実態をチェックします。
商品を大量に積み上げる独特の陳列。従業員たちは大忙しです。
品数の多さや長い営業時間のわりに人手は足りていないようです。
夜7時、従業員の退社時間をチェックするため再び出入り口を見張ります。
いた、彼だ!
朝一番に出勤してきた白いシャツの男性が出てきました。
出た。帰った。7時17分。ちょうど12時間くらいなんで3時間の残業ですかね。3ヶ月で残業200時間くらいになる。どっちにしろアウト。
その後も長期に渡り宮地さんは内偵を続けました。
強制調査
こうした報告を受け「かとく」は本格的な調査に乗り出します。
この日は応援に駆けつけた60人もの監督官が集まっていました。
強制調査に着手することになったのです。
操作内容を説明するのは「かとく」の若山匡秀さん。
被疑者についてですが、法人としての「ドン・キホーテ」。合わせて代表取締役社長の1法人1名。
ここの会社は以前から問題があって指導に従わないケースが非常に多かった。全社的な改善を指導したが結局そのまま改善が図られず。
長時間労働が全社的に行われている可能性が高いとして全国5ヶ所の施設に一斉捜索をかけるのです。
いよいよ宮地さんたちは本社へと切り込んでいきます。
同時刻の札幌、実はここに長時間労働の決定的な証拠が…。
「過重労働撲滅特別対策班」ですが捜索差押令状が出ております。
ここにですか?
ここです。
決定的な証拠
2015年6月16日、東京・目黒区にあるドン・キホーテ本社。
「かとく」の宮地さんや30人の監督官が強制捜査に入ります。
全社的に違法な長時間労働を行っている疑いがあるのです。
社内にある書類やパソコンのデータなどを押収します。
その同時刻、北海道札幌市。
「かとく」の若山さんたちがグループ会社の家宅捜索に着手します。
実はこの場所が特に重要でした。
「過重労働撲滅特別対策班」ですが捜索差押令状が出ております。
ここにですか?
ここです。
勤務記録とかこちらで入力されている全国の。そういったものをお預かりさせていただきたい。
次々と運び出される内部資料。
「かとく」はここに決定的な証拠があることを事前に掴んでいたのです。
そうした押収品はすぐさま東京へと集められました。
段ボール箱にして25箱分、これを1つ1つ調べ上げていきます。
中でも札幌で押収した書類、全国の従業員3,500人の出勤簿です。
労使協定では3ヶ月で120時間までの時間外労働しか許されていません。
1月あたり40時間を超えるかどうかが1つの目安になります。
月139.5時間、月118.75時間、月136時間。
大幅な長時間労働の証拠が次々と見つかっていきます。
例えばある従業員は早朝7時前から24時まで、最大で16時間以上働いていました。
ここから見るとかなりの人数が超過しているのは間違いない。
大原孝治社長
2015年11月、並行して経営陣への事情聴取も行います。
この日、「かとく」に呼び出されたのは代表取締役社長、最高責任者として長時間労働の実態をどこまで把握していたのか?
経営陣らへの追求は数ヶ月に及びました。
番組でも独自に会社へ取材を申し込むことに。
ドン・キホーテホールディングスの大原孝治社長。
「社長自身は長時間労働の認識はあった?」
ございませんでした。
なかった?
はい。
「会社でどの立場まで認識があった?」
支社長ならびに店長は理解をしていたのかもしれません。
支社長というのは、売り上げも、利益も、販管費も、全てにおいて権限を持っており、販管費のコントロールをしよう、売り上げのコントロールをしよう、利益のコントロールをしようという中でこういうことが起きたと思う。経営者の私としては誠に断腸の思いでございます。
権限を委ねていた支社長や店長が利益を優先するあまり労務管理を怠っていたというのです。
「長時間労働の状況は?」
現在は違法状態は完全に解消しています。人員の増員を行いました。大幅な増員です。
経営陣はこの命を賭けても必死になって労働基準法を守った状態を維持継続していくことに邁進していきたいと思います。
処分
2016年1月、全ての捜査を終えて処分を決める重要な会議が開かれます。
被疑者としては店長5名と支社長3名を立件したい。
立件するのは支社長3人、そして店長5人。全国の店舗の中でも特に長時間労働が多かった店を対象にしました。
さらに、
専務と代表は時間外労働の実態を全く把握していなかった。
違反防止措置も尽くされていなかったので「法人」についても立件する。
会社そのものの責任も問う厳しい判断を下したのです。
記者会見
1月28日、「かとく」が記者会見を開きました。
東京労働局・労働基準部の樋口雄一監督課長は、
違法な長時間労働を行った疑いで株式会社ドン・キホーテを東京地方検察庁に書類送検しました。
誰もが知る大企業の摘発は世間に大きな衝撃を与えたのです。
10ヶ月に渡り操作を続けてきた宮地さん、この日、ひとつの大きな区切りをつけました。
今後も長時間労働を繰り返すような悪質な会社があれば、どんどんきっちりと立件していきたい。そういうことをやることで企業に対しての抑止力になる。
長時間労働の撲滅に向け「かとく」の捜査員たちの戦いは続きます。