協争
1月19日、アサヒビール株式会社とキリンビール株式会社は大阪から北陸地方への製品の輸送を共同で始めました。
このように同じ業界のライバル同士が特定の事業で協力する。このようなことを最近では「協争」といいます。
ただ競うのではなくて、協力という意味を加えた「協争」。業界が抱える様々な課題を打開する戦略として徐々に広がってきています。
ビール業界として初めての試みとなった広域での共同輸送事業。どのような狙いがあるのでしょうか?
アサヒビール・キリンビール共同輸送列車出発式
西日本で最も広大な面積を誇る日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の吹田貨物ターミナル駅。
山口博之キャスターの目に飛び込んできたのは、
こちらにはアサヒのスーパードライ。そしてこちらにはキリンの一番搾り。ライバル同士が同じコンテナに相乗りしています。
1月19日に開かれたのはアサヒビール株式会社とキリンビール株式会社の製品を運ぶ「アサヒビール・キリンビール共同輸送列車出発式」。
日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)の真貝康一取締役は、
将来につながる画期的な取り組み。
北陸地方に工場を持たない両社はこれまで中部地方などにある工場からそれぞれが独自に手配した長距離トラックで直接、現地の小売店などに製品を運んでいました。
それを関西にある工場からの供給に切り替えてトラックではなく鉄道コンテナで輸送。日本通運株式会社が持つ物流拠点を通じて北陸地方の小売店に届けます。
ビール系飲料の販売でトップの地位を争いしのぎを削る両社。物流部門で手を組んだ背景にはある強い危機感があり抵抗はなかったといいます。
アサヒビール株式会社の佐藤郁夫取締役は、
ドライバー不足で安定的に荷物を運べなくなる可能性があるエリアで共通したのが北陸エリア。
キリンホールディングス株式会社の石井康之常務執行役員は
物流は互いに困っている課題なのでぶつりゅうに関しての協業は全く抵抗がない。
ドライバーの不足などで今後増え続ける物流コストを抑えようと先手を打ったのです。
一見、仲が良さそうな両社の担当者ですが、物流以外のブランド戦略や価格競争では引き続き火花を散らす覚悟です。
アサヒビール株式会社の佐藤郁夫取締役は、
マーケティング、あるいは商品のブランド価値そのものは競争だ。そこで一緒に何かできるかというと、そこはないと思う。
キリンホールディングス株式会社の石井康之常務執行役員は
ブランド戦略や価格などは、そこははっきりと競争領域。
このように特定の事業で協力しつつ実際の販売量など競うべきところで競い合う経営戦略。これが「協争」の姿なのです。
早稲田大学ビジネススクール
[blogcard url="https://www.waseda.jp/fcom/wbs/"]
企業の経営戦略に詳しい早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授。「協争」が増加している背景をこう分析します。
圧倒的に日本のマーケットが小さくなってきている。苦しい部分からどんどん統合していこうという動きが、ありえないような組み合わせでついに起きている。
背景にあるのは少子高齢化による国内市場の縮小です。
実はビール系飲料は12年連続で出荷量が減少。
さらにヤマハ発動機株式会社と本田技研工業株式会社が提携した50ccのスクーター市場も大きく縮小しています。
「協争」は効率化で事業を維持するための守りの動き。ライバル同士でも協力せざるを得ない状況なのです。
しかし、一方で
グローバル競争の中で欧米の大手は、もっとすごいスピードで再編している。
積極的な投資を繰り返し規模や商品開発力で勝る海外企業などとどう戦っていくのか?
入山章栄准教授、「協争」で浮いた資金をグローバル戦略に振り向ける必要があるといいます。
もともと敵だった人たちと、お互い腹の中では何を思っているか分からない。左ではこうやって(戦って)いるが右手では握手すると、是々非々でやっていくことがすごく重要になってきている。
「『協争』の動きは常識になるのか?」
なってこないと日本企業はやっていけない。