「中国焦点」です。ロシアによるウクライナ侵攻から半年、日本や欧米諸国はロシアに対する経済制裁を続けていますが、一方で制裁を受けているロシア経済を支えているのが中国です。中国とロシアの今年1-7月の貿易総額は前の年と比べて29%、およそ3割も増加しているのが現状です。中国とロシアの貿易の現場を取材しました。
"対露制裁が効かない"国境の街!中国とロシア もたれあう構図
北京からおそよ1,000キロ、ロシアとの国境にある都市、満州里。見えてきたのは巨大なロシアの民芸品マトリョーシカです。
中国の地方都市にも関わらず広場にはたくさんのマトリョーシカが並びます。
市街地の看板には中国語とともにロシア語が書かれています。
北京支局
佐藤真人記者
街の広場ではパンダとホッキョクグマが仲良くしている像があります。中国とロシアの友好を表していると考えられます。
いまは絶好の観光シーズン。中国でも新型コロナの移動規制が緩和されたため異国情緒を求める人にとって満州里は人気の観光地です。夜になると大勢の人で賑わいます。
商店の店員
7月・8月が一番旅行に良い時だよ。
今年はよくなってきた。政府のコロナ対策は良くやっているよ。
満州里が持つもう一つの顔が貿易都市。陸路による中露貿易の物資の65%がここを通過します。
国境に向かうと見えてきたのは大量の建設機械やトラック。すべて中国企業が生産したものです。
清掃の担当者
車両は広州、山東省、市外から運んできている。
運搬用の大きなトラックに載せてこの税関を通ってロシアに輸出される。
今年1-7月、中国からロシアへのショベルカーの輸出台数は1年前と比べ2.3倍に。20トンを超える大型トラックに至っては3.2倍以上に増えています。
日本や欧米のメーカーがロシアへの輸出や現地生産を軒並み停止する中、代わりに中国企業が大量の建設機械などをロシアに輸出しているのです。
経済的なメリットは輸出にとどまらず輸入の面でも鮮明となっています。
国境にある展望台に登ると手前が中国側、奥がロシア側です。陸続きであるメリットを活かし、貨物鉄道で中国はロシアから資源を大量に輸入しています。コンテナの中身はロシア産の石炭。7月、中国によるロシア産石炭の輸入量は1年前と比べ14%増加しています。ロシアのウクライナ侵攻直後の3月から石炭輸入を増やしているのです。
専門家の視点!ロシアを利用する中国
東京大学大学院教授で中国を取り巻く国際関係に詳しい川島真さんです。中国は中国自身の利益を考え、ロシアとの貿易を拡大させているとみています。
東京大学大学院
川島真教授
地図を広げてみれば分かるように中国があってカザフスタンなどがあり、イラン、トルコがロシアの周りにある。その国々がほとんど制裁に加わっていない。
その中で制裁をやっても陸路があれだけあいている。
中国としてはやはりエネルギー。
天然ガスにしても原油にしても中国に安い値段で入ってくるのは大変良いこと。
世界でエネルギーが厳しい状況の中、中国はエネルギーを安価で輸入できる。
またエネルギーを利用しながら途上国に援助ができる。
中国はロシアを支える買い手であるとともにロシアと世界経済を接続するハブの役割も果たしています。
ロシア木材…行き交う列車!中国経由で世界に流れる"ロシア産"
中国が買い付けているものの一つがロシア産の木材です。
北京支局
佐藤真人記者
ロシアから輸入された木材が集積されている場所です。ここから中国全土へと出荷されていきます。
市内の木材加工業者を訪ねると出荷に向け板を揃える作業や床材を作る作業を行っていました。
木材業者
ロシア産の木材は質が良いんだ。今は製材されたものが多く来る。
ロシアからの製材の輸入額は今年1-7月、1年前と比べ4%伸びています。ロシアの製材の販売先は60%近くが中国、日本はロシア産木材の輸入を禁止しましたが、そのシェアは3%。ロシアにとってはほとんど影響がないのが実情です。
ウクライナ侵攻後、戦争の資金になる可能性があるとしてロシア産の木材は国際認証機関により紛争木材に指定されています。このため西側諸国ではロシア産木材の取引を避ける動きが広がっていたはずなのですが…
木材業者
この木材はアメリカ行きだよ。こっちは完成品。品質が良いものだ。
この工場ではロシアから輸入した木材を加工し、その後アメリカに家具用として輸出しているのです。
木材業者
アメリカ人は知らないよ。木材が中国に来た後、購入する人はどこから来た木材なのか聞かない。
それに経済上の問題に私たちは関わらない。自分のビジネスに専念すればいいんだ。
制裁を受けているはずのロシアの産品が中国を経由して世界に流れているのです。
木材業者
国際情勢(ウクライナ情勢)が今どうなっているかあまり関心がない。
けれども中国とロシアの関係にはまったく問題ないだろう。
専門家の視点!中国の新秩序デザインは
中国は西側主導の経済の枠組みを脱し、自らが中心となる経済構造を構築したいのではないかと川島教授は見ています。
大浜平太郎キャスター
中国が考える将来の国際的な枠組み、どういうイメージなのか?
東京大学大学院
川島真教授
途上国や新興国の感覚を中心に作り上げるというのが中国のイメージ。
中国からすると今作り上げられているさまざまな秩序は先進国に有利にできている。
中国はアメリカや先進国が提供している衛星を使った位置情報システムを使わない。
中国版システムを安く途上国に売っていく。中国式の国際公共財を作っていく。
途上国に提供する。どんどんやる。
最終的に中国が中心に座ろうと思っているとしても当面は世界の圧倒的過半数を占める途上国と新興国を味方につけることが目的。その中の1つがロシア。