この時期、全国各地で様々な品種の稲の田植えが行われていますが、実は4月にある法律の廃止が決まったことで一部のブランド米がなくなってしまうかもしれないという懸念が広がっています。
ミネアサヒ
愛知県新城市、日本の棚田百選にも選ばれた四谷の千枚田がある米どころです。
その近くで田植えのイベント「おコメ実らせ隊2017 新緑の田植祭」が開かれていました。
この日、植えていたのは「ミネアサヒ」というブランド米。生産量が少なく山の幻とも呼ばれています。
田植えのあとは炊きたてのミネアサヒに地元の自然薯を使ったとろろをかけて試食。
現在、日本には300以上のブランド米がありますが、将来、その存続が危ぶまれる可能性が出てきたのです。
その理由が1年後の廃止が決まった種子法。
主要農作物種子法(種子法)
種子法とは戦後の食糧増産のため稲や麦、大豆の種子生産や普及を都道府県に義務付けてきた法律です。
その法律のもと、各都道府県は予算を確保し、それぞれの気候や地形にあった米の品種を開発してきました。
「ミネアサヒ」生産農家は、
中山間地域で水も冷たい、それに適した品種が「ミネアサヒ」。
「ミネアサヒ」も標高300~500メートルの栽培に適した品種として約15年かけて愛知県が1980年に開発しました。
県の予算があったから時間とお金のかかる品種の開発ができたといいます。しかし、種子法が廃止されると義務ではなくなるため予算を縮小する都道府県が出てくる可能性があると専門家は指摘します。
龍谷大学の西川芳昭教授は、
予算などを使う法的根拠がなくなった。ルールや通達で国も努力はすると思うし、農林水産省は全力を尽くすだろうが、法律があるかないかで違ってくる。
種子生産農家
稲の種子を作っている農家も危機感を募らせています。
種子生産農家の権田博之さんは、
これは種もみなのでコメにはならない。
来年の田植えに使うためのミネアサヒの種もみを取る田んぼです。
雑草を少なくして、ある程度平らにしておかないとうまく育ってくれない。本数を少なく植えている。
種子の生産は品質を維持することや違う品種の混入を防ぐためコメの生産以上に手間がかかるのです。県からの補助金がなければ成り立たないといいます。
国や県から補助が出ない限りは手のかかるものは生産者が減る懸念がある。
種子法廃止の理由
そもそも、なぜ種子法は廃止されることになったのか?
農林水産省の川合豊彦穀物課長は、
今ある仕組みに民間の力を入れて種子ビジネスを大きくしていくのが大切。官民を挙げてやっていく。種子ビジネスは戦略作物なので海外には積極的に打って出ないと日本は負けてしまう。
種子法廃止の目的は民間の参入を促すため。
民間企業によるコメの品種開発
実は現在も民間企業によるコメの品種開発は行われています。
京都府与謝野町、ここで民間で開発された「夢ごこち」というブランド米が作られています。
園芸店を営む三光園の三浦浩さんが地域の農家とともに栽培に取り組んでいます。しかし、大きな問題が、
「夢ごこち」は種子代が1kg、約4,000円。
都道府県で開発された品種の種が1kg、500~600円に対して民間のものは1,000~4,000円。なぜそんなに高いのか?
1992年、粘り気があり、さらに「冷めても美味しいコメ」として誕生した「夢ごこち」。開発したのは三菱化学と三菱商事が共同で設立した研究所です。
現在、中島稲育種研究所が事業を引き継ぎ200品種を開発しています。
これが試験で使う苗。80種類くらいある。
一般的にコメの新品種の開発には約10年、最低でも1億円かかるといわれています。
株式会社中島千葉の千葉岳志農場長は、
もともと共同出資で始めたが最初に三菱商事が抜けて、種子市場があまりに狭く商売が成り立たず三菱化学もはずれた。
1980年台後半、規制緩和後に民間によるコメの品種開発への参入が相次ぎましたが、その多くが採算が合わないなどの理由で撤退。
現在357あるブランド米のうち民間が開発したものは44品種に留まります。
都道府県で開発した品種は県の試験場で原種、原原種、ほ場の審査までやってくれる。民間でやると、その分経費がかさむ。
農林水産省は種子法の廃止で都道府県と民間の競争条件をできるだけ同じにして民間企業への補助金の適用も検討しています。
種子を同じ価格で販売できるような土俵があればいい。
種子法の廃止で日本の農業は活性化するのか?
専門家はこんな懸念を示します。
龍谷大学の西川芳昭教授は、
大規模な農家、輸出競争力に向かっていく農業にとってはメリットがある。農業に力を入れることのできない県や小さな農家が作っているブランド米など多品種少量で作っているものがなくなってくる。