急激な技術革新が進む中で企業が従業員に新たなスキルを習得させるために「人への投資」が広がりつつあります。ただ、人への投資に使う費用がGDPに占める割合をみてみると欧米は2%から1%で推移しているのに対して日本は0.1%と圧倒的に少なくなっています。こうした中、「人への投資」を拡大させようと320社が参加する協議会が8月25日にスタートしました。
「人への投資」協議会発足!ソニーGなど320社連携
8月25日に発足した人への投資を促す協議会「人的資本経営コンソーシアム」。参加するのはソニーグループやキリンホールディングスなど計320の会社。従業員が新たなスキルを身に付けるための先進的な事例の共有などが狙いで経済産業省などが活動を支援します。
西村経産大臣
岸田政権で「新しい資本主義」の中核は「人への投資」ということ。
政府は2024年度までの3年間で4,000億円の予算を人への投資に充て、先をゆく欧米との差を埋めたい考えです。
なぜ日本では人への投資が進んでいないのか。協議会の会長を務める一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏は…
一橋大学CFO教育研究センター長
伊藤邦雄氏
人的資源にお金を使うのは「コスト」という意識だったので経営者はコストをどんどん切り詰めようという効率志向だった。
デジタル化が進み、新たな技術が必要となる中、研修などにかかるお金をコストではなく投資と捉え、従業員の生産性をどう高めるかが重要になると指摘します。
一橋大学CFO教育研究センター長
伊藤邦雄氏
従業員に適切な環境を提供すれば人材の価値は伸びる。
そして従業員に価値を発揮してもらい競争力を高めてもらい企業価値を高めてもらうという方向に経営のかじを切る必要がある。
実際、企業はどれだけ人への投資を行っているのでしょうか。
IT企業勤務
人への投資はあまりないかも。
自分のためにもなるし、スキルアップしたら会社に還元できることも増えるし研修があったら参加したい。
接客業
新卒には手厚いが中途の長期雇用の人には研修が少ない。
「人への投資」で業績アップ!世界40万人 仮想空間で研修
日本が遅れを取る人への投資ですが海外企業はどう実践しているのか、ドイツに本社を置く自動車部品メーカー「ボッシュ」の日本法人を訪ねました。
角谷暁子キャスター
ちょうどこちらでリスキリングの講座が行われているということです。結構和気あいあいと楽しそうにやっています。
参加していた従業員は若手からベテランまでさまざま。きょうはコーチングスキルを磨く研修が行われていました。顧客の本当のニーズや部下の本音を会話からくみ取る方法を学びます。ロールプレイング形式で2日間に渡り実施。顧客と接することが少ないエンジニアも参加しています。
研修参加者(エンジニア)
エンジニアが将来どういうスキルを持っていないと生き残れないかを学習する良いトレーニングになっている。
ボッシュの日本法人では学び直し、リスキリングといわれる研修を年間200種類、400回開催。語学、データ分析、AI技術などさまざまで担当業務に関わらず好きなものを受講でき、研修時間は勤務時間としてみなされます。
さらにこんなものも…
ボッシュ
人事部門
加藤聡一郎さん
"研修するための空間"にいます。
仮想空間を使ってのリスキリング研修です。世界60ヵ国以上の全従業員40万人が受講可能なシステムを導入。世界中のスタッフと意見を交わしながら海外の先端技術を学ぶこともできます。ボッシュはこうした従業員の投資に2026年までの10年間で20億ユーロ、日本円でおよそ2,830億円投じる考えです。
ボッシュ
人事部門
加藤聡一郎さん
自動車業界にとっても100年に一度の変革期にある。
従業員一人一人が考えて行動し、その変化に対応していく。
リスキリング(学び直し)の取り組みを進めることで個人が強くなり、結果として会社も強くなる。
人への投資に力を入れることが業績アップにもつながっているといいます。
角谷暁子キャスター
業績につながったという実感はありますか?
ボッシュ
人事部門
加藤聡一郎さん
実感あります。
従業員が研修でAIについて学び、彼らが日々行っているカイゼン活動をAIで自動化したことによりカイゼン活動が70%効率化された。