新型コロナウイルスが発生する4年前に感染症の世界的な大流行、パンデミックを予言していた人物がいます。マイクロソフトの創業者で現在は慈善事業に取り組んでいるビル・ゲイツ氏です。今回、日本を訪れたゲイツ氏にジャーナリストの池上彰さんがインタビューしました。パンデミックなき未来のために何をすべきか、ゲイツ氏に問いました。
ビル・ゲイツ氏が語るパンデミック防ぐ道は…
テレビ東京を訪れたビル・ゲイツ氏。2年前にマイクロソフトの取締役を退任し、現在は自ら立ち上げた慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」で活動しています。
池上彰さん
日本への訪問は4年ぶり、今回の目的は?

ビル・ゲイツ氏

ゲイツ財団は「グローバルヘルス」、つまり子どもたちの命を救うためさまざまな取り組みをしています。
日本政府や民間企業はその活動を支援してくれる重要なパートナーです。
今回の訪日の目的は私たちのパートナーシップをどう強化し、大勢の命を救うための資源をどう増やすかを話し合うことです。
ゲイツ氏が取り組んでいるのがグローバルヘルス。世界の保健医療分野の課題解決です。
ゲイツ氏が莫大な私財を投じて設立したゲイツ財団。2000年の設立以来、600億ドル、およそ6兆9,000億円もの資金を製薬会社や研究機関などに提供してきました。
池上彰さん
世界の健康・保険について「何とかしなければ」と思ったきっかけは?

ビル・ゲイツ氏

マイクロソフトが私にもたらした巨額の資金の使い方を考えていた時、子どもの命を救うために使われるお金がいかに少ないか、そしてアフリカに暮らす子どもは日本やアメリカの子どもに比べ40倍も死亡する可能性が高いことに衝撃を受けたのです。
マラリア対策にほとんどお金が使われていなかったのです。
すべての命には同じ価値があり、私が生きている間にすべての子どもたちが平等に生きていけるようにしたいと私は決めたのです。
豊かな国とそうではない国との医療格差の解消に向けゲイツ氏が注目しているのが日本企業の技術です。
ビル・ゲイツ氏

ゲイツ財団が必要としているのは日本政府の支援だけではありません。イノベーションが必要です。そして新たな手法が必要です。
塩野義製薬やNECなど日本企業11社の経営陣が集まったシンポジウム。ゲイツ氏は日本の技術を生かして発展途上国が抱える医療問題の解決を目指す考えを強調しました。
この取り組みに大手商社の豊田通商も参加します。
豊田通商
シニアエグゼクティブアドバイザー
加留部淳氏

私の会社はアフリカで「ラスト1マイル」の取り組みをしています。
豊田通商が手掛けるのはアフリカでのドローンを使った医薬品の配送事業。道路がなく車が通れない地域で空から医薬品を届けているのです。しかし、この事業、すぐには利益が出ないといいます。
豊田通商
シニアエグゼクティブアドバイザー
加留部淳氏

おそらく長い時間をかけないと事業としての利益は出ないと思う。
世界の保険・医療の水準を上げることは社会的な課題を解決するとか経済そのものを伸ばすことに大きなインパクトがあると思う。
池上彰さん
日本には古くから「情けは人のためならず」という言葉があります。誰かを助けると、それは世界を回り回って結局自分たちのためになる。アフリカや途上国の人を助けることが私たちの健康を守ることになるという意識が大事だと思うが?

ビル・ゲイツ氏

もちろんです。私たちは自分たちの活動に誇りを持たなければなりません。
とても充実した取り組みです。
アフリカの医療システムが改善されるほど世界的に流行する前に感染拡大を防ぐことが容易になる。
医療格差の解消に加え、ゲイツ氏は新型コロナのようなパンデミックを防ぐための仕組みつくりが急務だと訴えます。
池上彰さん
なぜ2015年にゲイツ氏はパンデミックを予言できた?

ビル・ゲイツ氏

実際は予測しようとしたわけではありません。恐ろしい事態が起きるリスクがあり、それを避けるための対策を講じる必要があると言いたかった。
パンデミックによる膨大な経済損失、多数の死者、教育上の損失などを経験し、再び同じことが起きる可能性を最小限に抑えるために感染症の監視強化と技術革新を行うべきです。
池上彰さん
新たなパンデミックに対し、どんな準備をすべきか?

ビル・ゲイツ氏

世界的な監視体制をもっと強化する必要がある。
監視体制は3,000人規模にするべきです。
新たなパンデミックの発生に比べればそのコストはとても手頃だと思います。
ゲイツ氏はWHO(世界保健機関)による現在の監視体制では新たなパンデミックを防げないと指摘します。
来年、広島で開かれるG7サミット、主要7ヵ国首脳会議でパンデミックを阻止するための専門組織の創設について議論すべきだと訴えます。
ビル・ゲイツ氏

来年のG7は「パンデミックへの準備が不足していた」と振り返るのに絶好の機会です。
そして同じこと(パンデミック)が繰り返される可能性を最小限にするためどんな組織をつくり、資源をどう確保すべきか。
致死率がはるかに高いパンデミックが起こるかもしれないのです。
世界有数の大富豪として慈善活動に取り組むゲイツ氏。インタビューの終盤、こんな質問を投げかけました。
池上彰さん
キリスト教では「お金持ちは天国に行けない」と言われる。ゲイツ氏もそういう意識があるのか?

ビル・ゲイツ氏

私のような幸運な人間は謙虚でなければならない。
今後25年で私はすべてのお金を使い大きな影響を与えることを望みます。