中国は北京オリンピックで脱炭素、環境への配慮を世界にアピールしています。
しかし、その裏側を取材するとある問題が見えてきました。
"脱炭素アピール"その裏側で…
田口智也記者。
こちらメディアセンター内にある巨大な展示パネルですが、よく見ると環境に配慮した大会運営がされていることがアピールされています。ここには100%クリーンな電力で賄われていると書かれています。
2月3日にメディア関係者を集め、競技会場で強くアピールしたのは…
大会組織委員会 担当者。
省エネ技術による会場でのCO2削減量は自動車約3,900台に相当する。
北京オリンピックは環境保全を非常に重要視している。
スケート競技の会場では選手が滑る氷もこれまでよりもエネルギー消費が少ない最新の製氷システムで作られているといいます。
会場を視察した習近平国家主席は…
グリーンエネルギーで安全で簡潔に運営すれば五輪は見事に成功する。
カーボンニュートラルで大会を運営するのは史上初だとして、国際社会にアピールする狙いです。
しかし、ある問題が…
救急車が来たぞ、早く早く。
警察に引きづられていく男性。
言い争っている人混みの奥に見えるのは大量の太陽光パネルです。
ここは北京に隣接する河北省。
オリンピック会場などで使用する電力を賄うため2016年以降、風力や太陽光の発電施設が次々と建設されました。
しかし、その発電所用に土地を貸し出した契約に問題があったと、この村に住む李さんの話です。
私の7畝の農地は1畝あたり年間1000元(約1万8,000円)の契約だったが、現在に至るまでまったく金を受け取っていない。
無理やり契約を結ばされた上、お金を受け取っていない李さんのような人は村全体の3分の1、100世帯に上るといいます。
講義した村民たちは治安を乱したとして当局に一時身柄を拘束されることに。
中国には広大な土地がある。どこでも太陽光発電を建設できるじゃないか。
グリーンエネルギーの環境保護は良いことだが農地を勝手に占領してはいけない。
中国の電力にはさらなる問題も…
昨年秋、電力不足による停電が相次ぎました。道路では信号が消え大渋滞。
エレベーターも突然止まり閉じ込められた人も。
うちの子はまだ一歳なのに、どうして事前に停電を知らせてくれないのか。
中国の電力、そのカギを握る場所があります。北部の山西省、市街地から車で走ること1時間。
北京支局の杉原啓佑記者。
山西省の炭鉱に来ています。こちら作業員が石炭を選別する作業を続けています。
実は山西省は石炭産出量が中国全体のおよそ3割と最大の産地。
石炭の混じった大量の鉱石から作業員たちが選別し、次々と車の荷台に放り込んでいきます。
炭鉱作業員。
石炭はこれだよ。
毎日ずっと仕事だよ。土日も休みはない。
ここ最近? 忙しいよ。
昔は村で農業をやっていたが、トラックを買って働きに来ている。
最近、仕事が忙しくなったと話す作業員達。電力不足を解消するため中国政府が石炭増産の大号令をかけたからです。
山西省の石炭生産量は電力が不足し始めた去年8月から5ヵ月連続で1億トン超えを記録。これは山西省の生産能力としては限界に近い数値です。
こちらは石炭運搬専用の線路です。採掘された石炭はあちらの貨物列車に乗せられ、およそ600キロ先の中国沿岸部まで運ばれます。貨物列車の先はあまりにも車列が長すぎて見えなくなっています。
石炭専用の貨物列車「大秦鉄道」。
2万トンの石炭を一度に運ぶことができます。
200以上の車両が連なったその全長はおよそ2.6キロと中国一長い列車です。
こうして各地に運ばれた石炭がいまの中国の電力を支えているのです。
元日にはきらびやかなイルミネーションが街を彩った中国。石炭増産の甲斐もあり、都市部の電力不足は解消しました。
しかし同じ頃、石炭鉱山近くの人口数十人の小さな村「上麻黄頭村」を訪ねると…
石炭鉱山近くの村に住む蘇さん。
これが石炭クーポン。村から配られたもの。
クーポンがなければ石炭は高い。
先日、自分で買った石炭は2トンで1,300元(約2万3,000円)もした。
需要の高まりから急激に値上がりした石炭に対し、地元政府が急きょ発行したのがこのクーポンです。
石炭2トンを9,000円ほどと割安で購入できるといいます。
こうやって石炭を燃やすと部屋が暖まる。
石炭と木を混ぜて燃やすと長持ちする。
農村部ではこうして石炭を燃やして暖を取る人たちは今でも少なくありません。彼らの収入では電気代を支払えないためです。
「石炭クーポンで一冬越せそうか?」
2トンの石炭があれば大丈夫。
このクーポンは良い、安くすむから。
世界最大のCO2排出国"中国"、脱炭素をアピールする北京オリンピックの裏にはまだまだ石炭頼みの現実があるようです。