今年2月、ネット通販大手アスクルの物流倉庫で起きた大規模な火災。
東京ドーム1個分の面積が燃え、鎮火までに12日もの時間がかかりました。
そのアスクルが10月2日、出荷量が火災前の水準まで回復したことを受け完全復活を宣言しました。
7ヶ月というスピード復活の裏には何があったのでしょうか?
アスクル復活までの7ヶ月に独占密着しました。
アスクル株式会社
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10月2日の朝、都内にあるアスクルの本社。
約500人が集まった朝礼で岩田彰一郎社長が発したのは、
ロハコもいよいよ復活ということになりました。
社員からは拍手。
10月2日、アスクルが運営する個人向け通販サイト「ロハコ」の出荷量が火災が起きる前の水準に回復しました。
今回の火災では多くの皆さまに迷惑をかけたので、近隣の皆さんに喜んでもらえる物流センターにしていきたい。
火災
2月16日、埼玉県三芳町にあるアスクルの物流センター「アスクルロジパーク首都圏」で起きた火災。
約4万5,000平方メートルが焼失し、鎮火まで12日を要しました。
火災現場
6月、アスクルから特別に許可を得て火災現場にWBSのカメラが入りました。
よく見ると飲み物ですね。缶、それからペットボトルが、それなか飲み物の中身でしょうか、腐ったような臭いも漂ってきます。
この物流センターで主に扱っていたのはネット通販「ロハコ」で販売していた約7万点の日用品。
ロハコ全体の出荷量の6割を担う拠点がストップしました。
アスクルの物流管理、志和池賢一さんは、
そちらが商品を保管していた自動倉庫の棚。
コンベアも茶色に焼きただれ、火災の凄さを物語っています。
この未曾有の危機をどう乗り越えるのか?
倉庫火災から復活までの7ヶ月を追いました。
会見
鎮火から1週間余りが経った3月9日、岩田社長は、
ご迷惑とご心配をおかけし深くおわび申し上げます。
損失額は約101億円。急成長してきたアスクルの失速を誰もが予感したが、
ロハコは9月の完全復活に向けて全社挙げて全力投球していきます。
わずか半年での完全復活を宣言したのです。
実は岩田社長は鎮火後すぐ新たな物流センターを探していたといいます。
新築の大きな倉庫が空いていると聞き、4月3日に契約、20日から出荷を始めた。
アスクルバリューセンター日高
それが埼玉県日高市にある「アスクルバリューセンター日高」。
5月末、安全祈願祭が行われました。
従業員の雇用を続けるため火災が起きた物流センターから約15キロメートルの場所を選びました。
建物の1階から3階、約4万6,000平方メートルをロハコ専用の物流センターにする計画です。
1日も早くこのセンターで復活させていきたい。
しかし、中はほとんど何もない状態。フル稼働する他のセンターと合わせても出荷量は火災前の約20%です。
新たな物流センターの全体設計を担うのがアスクル新センター開発、才田啓三統括部長。
GASというシステム。ミスなく素早く仕分けできる。
GAS
これは12人分の注文の仕分けを効率的に出来るシステム。
商品をスキャンすると自動でフタが開き、その商品をどの箱に入れればいいか分かる仕組みです。
この装置、従来の倉庫にはありませんでした。
復興するにあたってゼロベースでデータを見直し、仕組み、やり方を検討した。
ただ、このGASを導入しても出荷量は火災前の約70%。さらなる設備導入が急がれていました。
防災
6月15日、物流復活への取り組みを進める一方で、アスクルは防災について見直しを始めていました。
特に力を入れたのが初期消火の訓練。今回の火災では消火栓を正しく使えず十分な放水ができなかったと見られているからです。
防災を巡ってはもうひとつ大きな問題があります。火災現場を訪れた大江キャスターが見つけたのは、
見てみますとシャッターがまるでドレープのような形になっている。止まって降りなかったように見えます。
今回問題視されたのが多くの防火シャッターが正常に閉まらなかったこと。その数、全体の約6割。
国は火災による何らかの原因で電線がショートし、防火シャッターが動かななったとみています。
完全復活するには防災面の課題も解決しなければなりませんでした。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
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火災から5ヶ月経った7月6日、ある発表が業界を驚かせました。
岩田社長は、
両者で力を合わせてEコマースで生活者を幸せにしていこう。
まだ物流の立て直しが本格化していないにも関わらずアスクルはセブン&アイ・ホールディングスと共に宅配サービスで業務提携すると発表しました。
セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長、
2月16日に発生したアスクルの三芳センターの倉庫火災がきっかけ。
鎮火から半月後、岩田社長がセブンを訪問、その後わずか4ヶ月足らずで提携発表にこぎつけました。
「自分を追い込んでいる部分もある気がすると言っていたが?」
岩田社長は、
追い込まないと普通のスピードや考えでは波にのみこまれてしまうだけ。
ローラーコンベアー
8月、日高の新センターに完全復活に欠かせないあるモノが搬入されました。
運び込まれているのはローラーコンベアー。
センターの至る所で設置作業が進んでいました。
才田さんは、
据え付けから1ヶ月でこの状態。あと1ヶ月で試運転までこぎつける計画。
倉庫全体に張り巡らせるコンベアーの長さは合計3キロメートル。設置と動作チェックに掛かる時間を通常の半分ほどの時間で仕上げなければいけない状況でした。
いま同時進行なので日数が足りるか。
モノができあがっても運用できませんみたいな。
防火シャッター
完全復活の期限が目前に迫った9月28日。
取材班が目にしたのはフロアを埋め尽くすローラーコンベアー。
これで計算上は火災前の出荷量に戻るのですが、才田さんの表情は険しい。
防火シャッターが閉まるかチェック。
最大の課題、防火シャッターの動作確認です。特にローラーコンベアーのあいだをきちんと下りるか、見極めます。
火災報知器がなりました。すると防火シャッターはゆっくりと降下。コンベアーの繋ぎ目のわずかな隙間を通過し無事に閉まりました。
またコンベアーにシャッターん邪魔をする荷物が残っているときにはセンサーが感知して自動で荷物をどける機能もついています。
他にも万が一、電線がショートしてもシャッターが降りる二重の仕組みにしました。
インフラ
火災の発生から7ヶ月半。物流と防災の課題に取り組み、火災前の出荷量を取り戻したアスクル。
岩田社長は、今回の火災である気付きがあったといいます。
われわれの持っているインフラを社会に還元できるようなことを考えていかなければいけない。
この日、岩田社長が向かったのは大阪府吹田市。
吹田には2018年に稼働する新たな物流センター「アスクルバリューセンター関西」があります。
南海トラフ地震にも耐えられる強靭な免震装置を採用しています。
われわれは日用品が全部あるので他と違う役立ち方がある。
災害が起きた際、市民に食料などを優先的に供給する防災協定を吹田市と結ぼうと検討を進めていました。
吹田市の後藤圭三市長は、
前向きに取り組んでいる。逆に信頼感が増した。
岩田社長が考える新たな物流センターの役割。それは災害時に地域住民の命を守るインフラです。
「将来振り返った時に火災はアスクルにとってどんな意味?」
リボーン、生まれ変わると言っている。地域との関係も強くしなくてはいけない。やっとそこにたどり着いた。