陸上の100メートルで日本人として初めて9秒台を出した桐生祥秀選手。そして、それを上回る9秒97で日本記録を更新したサニブラウン選手。この2人が日本最速の男を決める頂上決戦で直接対決をしました。
WBSではその戦いの裏側でしのぎを削るシューズメーカーの開発現場に密着。もう一つの戦いを追いました。
株式会社アシックス
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福岡県にある競技場「博多の森陸上競技場」。
その前には入場を待つ長い列が。
ここで陸上の日本選手権が開かれています。
注目は男子100メートル決勝。日本史上初、9秒台の直接対決を一目見ようと多くの人が詰めかけました。
その会場の一角にスポーツ用品を手掛けるアシックスがブースを設けていました。
田﨑公也さん、靴職人です。
100満点のシューズに仕上げた。桐生選手も試合に向けて最大限調整している。
7年前から桐生選手のシューズを手掛け、これまで100足以上を作ってきました。
その特徴は足にフィットし、軽さと丈夫さを両立させたことです。
アシックス スポーツ工学研究所
このシューズを開発しているのがアシックスの研究開発拠点です。
選手たちの競争の裏側で常にアップデートを続けています。
特殊な装置を前に話し合う田﨑さんの姿が…
隣にはデータ分析を担当する石川達也さん。
実は桐生選手、ここを訪れて走行フォームを撮影しています。
18台の特殊なカメラで動きを捉え、データ化しました。
これが桐生選手の走る姿。ここからさらにクセなどを細かく分析。シューズ作りに活かします。
今回、新たに浮かび上がってきたのは、
左足はまっすぐ。
推進方向に対していい感じ。
進む方向にまっすぐ蹴られているが右足は外側に逃げていく傾向がある。
注目したのが左右の足から地面への力の伝わり方の差です。
青い線が蹴り出したちからの方向です。左足はほぼ真っすぐですが右足ではやや横に流れているのがわかります。
まっすぐ蹴るのではなく、進む方向に対してそれている。
ここはロスになっている。
100メートルを走る歩数はトップ選手でおよそ45歩。少し力が横に流れるだけで、一歩ではわずかですがレースでは大きな差になることもあるのです。
小さなところを把握するのは靴の形や素材、構造につながる。
私の方で動きを把握。
それを靴に落とし込むのはどうしたらいいのかを田﨑さんと議論して決めていく。
彼らの樹体に応えたいし、その先には選手がいる。
選手の一生を背負う気持ちで物を作っている。
トップ選手のシューズ開発は市販品にも生かされるといいます。
スポーツ用品店で人気が高いのはサニブラウン選手が履くナイキのシューズと桐生選手モデルのアシックスのシューズ。選手の競争はメーカー間の競争でもあるのです。
トップ選手が結果を出せればブランドイメージの向上にもつながり大きな広告効果も見込めます。
研ぎ澄まされた感覚を持つトップ選手と接することで新たな気づきがある。
スポーツをするさまざまな人へ貢献できると思っている。
今回の分析データをシューズに落とし込もうと田﨑さんが動き出しました。
目をつけたのはソールと呼ぶシューズの裏側の部分です。
一番外側についている突起は地面に引っかかることで蹴る力をサポートするためのものです。
削り込んで蹴り出し方向と力を調整する。
田﨑さん、いきなりソールの先っぽを削り始めました。
作業後に見てみると蹴る力をサポートする突起が外側の部分だけ小さくなっています。
地面に引っかかりづらくすることで右方向に余計な力がかからないように工夫。右前のピンも他の部分より短くしました。
彼の最大の力が発揮できるようなものになると思う。
さらにこの黒いシートも改良点です。
右足にカーボンシートを内蔵させている。
硬さを弾力を併せ持つカーボンシート。
これを右足のある部分に入れることでより右方法に流れにくくすると同時にカーボンシートの弾力が蹴り出す力をサポートするといいます。
蹴り出し方向と力の両方を改善。より効率のいい走りを実現させる。
アシックスの技術の粋を集めた桐生選手の新しい靴が完成。大会直前に手渡します。
いとおしいですよね。この靴って。
ものづくりって一人じゃできない。
いろいろな人の知見や分析結果が混じって、やっと一つのものづくりができる。
選手もこれを履いて高いパフォーマンスを発揮してもらい、優勝とか結果に結び付いてくれたらと思う。
日本陸上競技選手権大会
そして先程、会場中のファンが熱い視線を寄せる中、迎えた100メートル決勝。日本を代表する二人が激突する頂上決戦に期待も高まります。
田﨑さんが手掛けたあの白いアシックスの靴で挑む桐生選手。
そしてナイキの鮮やかな青い靴を履いた最大のライバル、サニブラウン選手。
勝負の行方は果たして…
勝ったのはサニブラウン選手。大会新記録での優勝です。
前半、レースをリードした桐生選手。しかし、サニブラウン選手の驚異の追い上げに屈し2位でフィニッシュしました。
僕の力が足りなかったがまだまだいける。いけると思わないとこの先成長しないので。
サニブラウン選手に負けないような伸びをしたい。
観戦を終えた田﨑さんは、
悔しいけれど、相手のほうが一枚上手だった。
桐生選手自身もさらなる進化を目指し頑張りますし、僕らも桐生選手に対して持っている力を注ぎ込んでサポートしたい。