新・ニッポンの素材力。
今回、取り上げる素材はジャケットの裏地などに使われている素材です。
ベンベルグ
大江麻理子キャスター、
今回、取り上げるのはスーツなどの裏地に使われる、日本だけで作られている繊維「ベンベルグ」です。
高級スーツのお店「ダーバン 新宿タカシマヤ店」でその繊維が使われている実際の商品を見せてもらいました。
素材表示には「キュプラ(ベンベルグ)」とあります。
このキュプラというのが素材の一般名称、商品名がベンベルグです。
滑らかで肌触りが良いため、多くのメーカーでスーツやコートの裏地に使われています。
さらに吸湿性が高いのも特徴。ワコールの高級インナーやユニクロの機能性インナー「AIRism(エアリズム)」にもキュプラ(ベンベルグ)が採用されています。
今やあらゆる衣料に欠かせないベンベルグ。これを世界で唯一生産しているメーカーが日本の旭化成です。
旭化成株式会社
[blogcard url="https://www.asahi-kasei.co.jp/"]
大江麻理子キャスター、
繊維先端技術センターです。
旭化成の繊維事業本部長、工藤幸四郎さん、
ライニング研究所、すなわち裏地の研究を中心にやっている研究所です。
ライニング研究所ではベンベルグを使った生地を用途や服に合わせて改良する研究をしています。
ベンベルグの原料
そもそもベンベルグは何からできているのでしょうか?
繊維の中に入っている実。
周りに産毛みたいなものがある。綿の実から産毛みたいなものを採ったものがベンベルグの原料。
綿花から綿を取った後の実に生えている産毛。元々、使い道がなく捨てていたという産毛を集めて溶かして作った繊維がベンベルグです。
シルクみたい。触り心地もすべすべ。
ベンベルグを拡大してみると断面が丸くなっているのが分かります。実はベンベルグはシルクの代替品を目指して作られた素材。シルクよりも丸い形が滑らかさの理由です。
この糸を織って生地にしたものをスーツの裏地などに使っているのです。
吸水・吸湿性
もうひとつの特徴が吸水・吸湿性。
ベンベルグとポリエステルの生地を入れた2つの容器を密閉して水蒸気で満たしてみます。
ベンベルグを入れた容器はすぐに水蒸気が見えなくなりました。
40秒後、容器内の湿度を測るとポリエステルは90%以上ですが、ベンベルグは30%程度ほどまでに下がりました。
吸水性が高いとこんなメリットも。
ベンベルグとポリエステルの生地を振ります。
ベンベルグは表地と裏地が離れましたけど、ポリエステルは裏地と表地がくっついている。静電気でくっついている。
ポリエステルは静電気で生地同士がくっついてしまいますが、ベンベルグは水分を多く含むため静電気が起こりにくいのです。
実際の服にポリエステルとベンベルグの裏地をつけて長時間動かした場合、ポリエステルの裏地は、
ボロボロです。
ベンベルグの裏地は、
ポリエステルと見比べてみるとボロボロ加減がずいぶんと違います。これが静電気のダメージ。
ベンベルグの歴史
綿の実から作られたシルクのようなベンベルグ。
実はドイツ発祥です。
旭化成の創業者がドイツから製造技術を日本に導入し、1931年に宮崎・延岡を生産開始しました。
ヨーロッパやアメリカのメーカーも作っていましたが、原料を溶かすために使う銅やアンモニアの処理が難しく、次々と撤退。
旭化成は銅などを再利用する環境技術を確立したことで、唯一生き残ったのです。
世界にオンリーワンの繊維には海外からも引き合いが…。
インドの女性が着る民族衣装。
インドやパキスタンの民族衣装「サリー」にも使われていました。
シルクに似た着心地と高い吸水・吸湿性は高温多湿の国で大人気。
しかも吸水性が良いので色が染まりやすい特徴が。
カラフルな民族衣装にもピッタリなのです。
今や国内外で年間数百億円を売り上げるベンベルグ。
旭化成の柱の事業の一つとなっています。
ベンベルグは1931年にスタート。87年も経つ。いまだに日本で作って、そのまま発展し続けている糸は珍しい。もしかしたらベンベルグだけかもしれない。
伝統を、歴史をつくっていくつもりで海外展開や用途開発に努めていきたい。