株式会社あきんどスシロー
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全国にチェーン展開する回転寿司の「スシロー」。
437店舗、売上高は約1350億円に上る業界最大手です。
約90種類の寿司が1皿100円。
気軽に楽しめるのが人気です。
ウニがない
そのスシローにある不満の声が続出していました。
ウニ、ないですよね。ウニがなかった残念です。
昔は必ずウニを頼んでいた。最近は食べなくなった。
実はスシローのメニューには人気の寿司ネタであるウニがなかったのです。
佐々木慎吾店長は
お客様からの声をたくさんもらっていて、「寿司屋だったらウニあるやろ」とか「何でないの?」とか。
実は3年前の2013年まで定番メニューとしてチリ産の冷凍ウニを出していました。
軍艦巻き、2貫100円。
ウニをやめた理由
なぜ人気のウニをやめてしまったのか?
大阪府吹田市の株式会社あきんどスシロー本社を訪ねます。
仕入れ責任者の堀江陽さん(46歳)。
なぜ1回やめた?
おいしくなかった。「食味検品」というのを社内でやっている。一番食べるのが嫌なのが冷凍ウニだった。自分たちが食べるのに抵抗があるウニをニーズがあるからという理由だけで売っていいのか?
いまは北海道産の生ウニを不定期に販売しています。
しかし1貫280円と高値になってしまいます。
商品本部会議
近年、スシローではウニだけでなく食材全般の調達に頭を悩ませていました。
総じて大不漁ということで非常に価格が暴騰している。
アメリカ市場の動きと一番怖いのが影響力のある中国の買い。
世界的な和食ブームによって寿司ネタの争奪戦が過熱していたのです。
2015年2月に社長に就任した水留浩一さんは危機感を抱いていました。
安さの価値というのは追求していきたい。できるだけお得感ある値段で出せるような。
水留浩一社長
水留浩一社長はかつて「企業再生支援機構(当時)」や大手アパレルメーカー「株式会社ワールド」などで要職を歴任。
日本航空株式会社の再建にも副社長(2010~2012年)として貢献した、いわば経営のプロです。
これまで株式会社あきんどスシローは食材の仕入れを商社に任せてきました。
水留浩一社長はそのやり方を抜本的に改革することにしました。
生産者までさかのぼって、回転寿司という「限界」みたいなものを感じさせないような、おいしい寿司を提供する。
チリ産のウニ
そして向かったのが南米チリ。
自ら産地に乗り込んで食材を調達することにしたのです。
いいね。ウニの山。
そこはとてつもないウニ大国。
船には天然のウニが溢れんばかりです。
それをスコップで豪快に運び出していました。
これで38トンある。たった1日で獲れた量だよ。
株式会社あきんどスシローは再びウニを100円で売り出そうとしていました。
味に自信が持てるウニを。
日本には主に冷凍加工されて入ってくるチリ産のウニ。
獲れたての生はどんな味なのか?
最高。おいしい。
身が大きくて甘みが強いチリのウニ。
この絶品の味をどうやって日本に届けるか?
壮絶な現場に迫りました。
南米チリ
日本の裏側、南米チリ。
その南部にあるチロエ島。
漁業が盛んでチリでも有数のウニの産地です。
水産資源に恵まれています。
4月27日、株式会社あきんどスシローの水留浩一社長と仕入れ責任者、堀江陽さんたちの姿がありました。
再び100円のウニをメニューに入れたいと自ら産地に乗り込んだのです。
訪ねたのは現地のウニ加工会社「PSF社」です。
チリに20社ほどあるウニ加工会社の中でも評判が高いといいます。
工場とか商品を確認させてもらって、ぜひ長い付き合いができればと思っているので。
PSF社のフェルナンド社長、大口の注文を期待していました。
うちのウニは品質がいいですよ。
早速、フェルナンド社長自ら生産ラインを案内してくれました。
生産ライン
この工場では1日20トンのウニを冷凍加工、その約9割を日本に輸出しているといいます。
まずは加工前のウニをチェックします。
臭みが全くない。
獲れたばかりのウニ、味はもとより形も色もキレイです。
しかし、なぜ日本に届いたものは味が落ちているのか?
工程をチェックしていきます。
ウニについた殻やトゲなどを塩水で洗い流す工程。
作業を見ていた堀江陽さん、思わず表情が曇りました。
堀江陽さん、おもむろに水の中に手を入れます。
このラインに意味があると思えない。崩れているやつが多い、痛めるだけ。
激しい水流にもまれてウニの形が崩れてしまっていたのです。
洗いすぎると風味も落ちてしまいます。
続いてウニを固める工程。
まず熱湯に軽く通します。
それから冷却。
これでウニの表面が固まり、本来なら形をキレイに保つことができます。
ところが、
ウニもうまみも色もすごく出ちゃう。固めているのにすごく出る。
洗う工程で形が崩れていたために、うまく固まらずに色やうまみまで溶け出していました。
その結果、形も悪く、色も褪せてしまったものが目につきます。
さらに問題が…
ウニを容器に盛り付ける工程。
フォークを使っている。フォークでウニを刺してやっている。できればウニをすくってほしい。
ウニが傷つく事などお構いなしに、フォークで次々に刺し盛り付けていきます。
中にはドロドロに溶けてしまったものまであります。
難しいなこれ。
冷凍する前の工程で、すでにウニ本来の味が損なわれていました。
こういうのが冷凍して解凍すると、食べた時に美味しくないことが多い。
これまで日本の商社が取引に来ていたものの、加工のやり方を指摘されることは殆どなかったといいます。
ものすごく厳しいチェックでした。生ウニの品質や味を維持したまま冷凍加工するのは、とても難しいんです。
このままでは取引できません。
堀江陽さん、フェルナンド社長に改善して欲しいと頼みます。
1週間後に改めて工場を訪ねることになりました。
ウニの素材が非常にいいので可能性は大いに秘めている。一緒になって現地の人たちと課題を解決したいと思っている。
ウニの取り扱いに無頓着なワケ
なぜ従業員はウニの取り扱いに無頓着なのか?
そこには意外なワケがありました。
ウニは食べますか?
食べないわよ。
なぜですか?
食べる気がしない。
ウニを食べたことなんて一度もないわ。
目の前にあるのに?
食べたくない。だっておいしそうには見えないから。
ウニ大国なのにチリにはウニを食べる文化がなかったのです。
そのため、味のことは全く気にしていませんでした。
大問題発生
数日後、堀江陽さんたちが泊まるホテルを訪ねてみると何やら深刻な様子。
大問題が起きていました。
工場は今日は動かない。原料がないので。
実はチリの沖合で大量の赤潮が発生し、不漁が続いていました。
その補償を政府に求めて漁師たちがデモを起こしたのです。
チロエ島の港や幹線道路を封鎖。
物流がストップする事態に陥っていました。
そのためウニの加工工場も動かせずにいました。
堀江陽さん、情報を集めようと街に出ます。
やって来たのは港近くの魚市場。
100軒ほどの店が軒を連ね、普段は買い物客で賑わっている場所ですが…
全然ない。
ほとんどの店が閉まっています。
魚を仕入れにいこうとしても無駄さ。デモのバリケードのせいで港には行けないんだ。
想定外の事態。
堀江陽さん、こんな状況でウニを調達できるのか。
PSF社
南米チリのチロエ島。
ウニの仕入れにやってきた株式会社あきんどスシローの堀江陽さんと六角圭さん。
その矢先、漁師たちがデモを起こし物流がストップしてしまいました。
デモから2日後の5月4日、PSF社を再び訪ねました。
加工の仕方が改善されたか確認するためです。
フェルナンド社長は別の港からなんとかウニをかき集めていました。
ウニを洗いすぎて形や風味を損ねていたレーンは使わず、手作業で丁寧に洗うことにしました。
それでも堀江陽さん、気になるところが。
ちょっと待って。水の中でやってほしい、衝撃の話ね。
カゴに開けるときに身が傷つく心配がありました。
カゴを水に沈めてからウニを入れるそうよ。
すぐに上達してきた。
次はウニを固める工程。
手作業で洗ったウニを熱湯につけ、それから冷却します。
前回は色とうまみまで溶け出していました。
溶ける量が少ない。
形が崩れにくくなったことで、この問題もクリアしました。
さらにフォークを使った盛り付けの工程。
以前は刺していましたが、丁寧にすくって盛り付けるようにしました。
丁寧に指を使ってやるのよ。
従業員同士、声を掛け合っています。
これまでの意識を変えて、もっと上達して、おいしいウニを作ってみせるわ。
やり方さえ分かれば、すぐに慣れます。
堀江陽さん、自ら現地に乗り込んだ甲斐がありました。
今回、日本からわざわざ来てもらって、とても感謝しています。品質を向上させることは我々にとっても大変重要なことです。
さらに改善を進め、冷凍ウニを日本へ送ることになりました。
ウニの販売開始
8月中旬、大阪。
株式会社あきんどスシローの食材が集まる物流倉庫「シモハナ物流株式会社 高槻センター」
マイナス20度の巨大冷凍庫にチリから届いたウニがありました。
まずは27トン。
およそ1ヶ月間かけて船で運ばれてきました。
8月19日、全国437店舗で100円のウニがスタートしました。
3年ぶりの復活です。
チリのデモの影響で安定した量が確保できず、まずは期間限定の販売となりました。
ランチタイムになると、すぐに満席です。
次々にウニの注文が入ります。
おいしい。全然臭くなくて、ちゃんとしたウニ。
「やっときたな」っていう感じ。もう一番好き、トロとウニ。
厨房を覗いてみると、
あと5パックしか残っていない。
100円のウニ。メニューの中で一番の売れ行きです。
全ての店舗を合わせると、この日だけで約18万皿が売れました。
チリまで行ってウニを仕入れた堀江陽さん、12月からは定番メニューとして出す予定です。
世界中どこでも、うまいものがあったら獲りにいく。食材はまだまだあると思うので、汗かいて、足使って、探しにいきたい。