いまマーケットで起こっているリアルな事柄をお伝えする「Marketリアル」。
今回取り上げるのは建築や自動車に使われるガラスで世界トップのAGCです。そのAGCの株価は2020年3月には2,300円を下回る水準がありましたが、足元ではその倍以上5,000円近くまで回復していきています。
現在、AGCでは平井社長のもと大胆な事業改革を行っています。その現場を取材しました。
"素材の会社"次なる戦略
建築や自動車用のガラス事業で世界シェアトップを誇る創業114年のAGC。
そのAGCを率いるのが平井良典社長。博士号を持つ異色の経営者です。
外に見えるさまざまなガラスも…
相内優香キャスター
このビルに使われている窓ガラスは?
平井良典社長
ほとんどAGCのガラスが使われている。
相内優香キャスター
自動車は?
平井良典社長
世界で3台に1台の車にAGCのガラスを使用。
日本だと半分以上。
かなりの確率でAGCの製品を見ていただいている。
よそ30の国・地域に200以上のグループ会社を持ち、従業員は5万人以上。
海外売上高比率は7割以上に及ぶグローバル企業です。
2月に発表した決算ではコロナ禍からの回復を受け売上高はおよそ1兆7,000億円と1年前に比べて3,000億円近くも上積み。営業利益はおよそ2.7倍と大幅に増えました。
株価は2020年の2,300円を下回る水準から一時は6,000円前後まで上昇。しかしその後、1,500円以上も値を下げました。
平井良典社長
ロシア、ウクライナ問題。
AGCの場合は大きな懸念材料として投資家が見ていると思うが、過剰な反応ではないかと考えている。
相内優香キャスター
影響はどのくらい?
平井良典社長
ロシアとウクライナの両方で事業をやっているが会社の売上に占める割合は2%程度。大きな影響はないと考えている。
ガラスは重くて割れやすいため地産地消が特徴。そのためAGCは世界に20ヵ所以上の生産拠点を持ち、ロシアにもその一つがあります。
ウクライナのキーウにはガラス販売拠点を持っています。
AGCはもとの社名を旭硝子といいます。
日本で初めて建築用の板ガラスの量産化に成功したのは1907年のこと。
国内の最大の板ガラスの生産拠点が鹿島工場です。
日本全体の建築用板ガラスの実に3分の1以上を生産しています。
そのガラスの主原料が珪砂と呼ばれる浜辺の砂より不純物が少ないもの。
10時間以上かけて1,600度の高温の窯で溶かしていきます。
しかし、AGCは去年2月に大きな決断をしました。
祖業である建築・自動車用ガラス事業の見直しを決定。投資額を3年間で800億円も減らすことに。
相内優香キャスター
板ガラス事業を縮小する理由は?
平井良典社長
先進国では人口の増加があまり見込めない中でガラスの需要も大きく伸びないとみている。
安定なボリュームを供給しながら高付加価値の製品を増やしていきたい。
従来の板ガラスだけでは将来の発展が望めず、維持管理を含めた製造コストもかかります。
そこで2018年に会社を変える宣言をしました。
"会社を変える"宣言
それが社名変更をして旭硝子から硝子という文字を取り、AGCにしたのです。
ではどうやって今後の成長戦略を描くのか、開発拠点を相内キャスターが取材。
"高機能ガラス"最前線
相内優香キャスター
横浜にあるAGCの研究開発拠点テクニカルセンターです。
驚きのガラスを開発。
200億円を投資し、去年6月の開設した研究施設「AGC横浜テクニカルセンター」。1,000人以上の研究員が従事しています。
失敗を恐れるな
この研究所を作ったのが平井社長。失敗を恐れるなと自らのエピソードを語ります。
平井良典社長
私が研究所時代に最初にチャレンジした新規事業は事業的に成功しなかった。
約5億円ぐらい失った。
その翌年、私は研究所のリーダーになって、その後新しいことにチャレンジさせてもらえた。
AGCがもつ良いカルチャー。
実際どんなチャレンジが行われているのか。
ここはスマホガラス実験室。AGCはスマホガラスで世界シェア第2位です。
相内優香キャスター
こちらが強化してある化学強化ガラス。そしてこちらが強化していない未強化ガラスです。見た目では全然違いがわかりません。
強化処理をしていないスマホを1メートルの高さからアスファルトに落下させると…
相内優香キャスター
1メートルの高さでスマートフォンのガラスがバキバキに割れてしまいました。
一方、現在開発中の強化ガラスのスマホを倍の2メートルの高さから落下させても…
割れませんでした。
世界シェアトップを目指して割れないスマホガラスの開発が進みます。
さらに世界初を目指して研究しているのが…
相内優香キャスター
鳥のさえずり。
こちらのガラスから音が聞こえます。
ガラスから音が鳴っています。
現在開発中のこのガラス、スピーカーの役目を果たす、その名も「ガラススピーカー」。モーサテが世界初公開。
AGC 技術本部
藤田拳さん
下側を揺らしている。
振動がガラス全体に伝わってきて面全体から音が鳴っている。
AGC独自の配合で作り上げた高機能のガラススピーカー。
AGC 技術本部
藤田拳さん
レストランや受付のインテリアの一部として使うと存在感なくきれいな音のスピーカーとして使える。
こうした高いガラス技術を応用して進出したのが半導体業界。
回路形成に使われるガラス基板の生産、今では世界で2社しか作れない技術です。
一方、AGCはこんなものも所有しています。
"塩"技術で医療分野
モーサテ スタッフ
これは何?
AGC鹿島工場
山田崇さん
AGCの化学品の出発原料となる塩。
これはメキシコから輸入した工業用の塩。
なんとこの塩が医薬品の製造につながっているのです。
塩からは石けんなどの原料になるカセイソーダと水道の殺菌などに使われる塩素が作れます。
その塩素からはフッ素が作られ、さらにそのフッ素が医薬品の原料になっているのです。
さらにその技術を発展させて新規事業の医薬品の製造受託を実現しました。
AGCでは2020年に新型コロナワクチンの原料の受託生産を開始。
さらに今年2月にはファイザーとビオンテックが開発するオミクロン株のワクチンの原料も製造受託することを発表しました。
AGCの売上高をみるとガラス事業と化学品事業が二本柱。
この2つをコア事業と位置づけ、新たに高機能ガラスや半導体関連、そして医薬品関連など3分野を戦略事業とし大きく会社を変えようとしているのです。
この戦略3事業だけでAGCは2025年には売上高を4,200億円まで成長させる計画です。
成長の秘密"両利きの経営"
平井良典社長
2015年に既存事業をコア事業として新しい成長事業を戦略事業として、この両輪で会社を成長させるという大きな戦略を決めた。
両利きの経営をさらに磨きこんでコア事業はより強く常に新しい探索を行って戦略事業を生み続けるような会社にしていく。
両利きの道は平井社長自身も実践しています。博士号を持つ経営者として京都大学客員教授を務め、学びを実践に結びつける大切さを教えています。
平井良典社長
アメリカでは博士号を持った企業経営者は当たり前。日本はほとんどいない。
学生のみなさんも「学者だけを目指すのではなく企業経営をやってみたら」と語りかけている。