「22兆円」。これはメーカーが余分に作った製品や返品されて余っている在庫の価値を試算したものです。
その多くは安売りをすると市場価格が崩れてしまうという恐れから廃棄されているのが実情です。
こうした余った在庫を企業も助かる形で市場に再び戻す、そのために新たなビジネスモデルが注目を集めています。その仕組みを取材しました。
株式会社山一
[blogcard url="http://www.mennoyamaichi.co.jp/index.html"]
有明海を望む長崎県南島原市。
この地で創業して45年の地元企業「山一」。
作っているのは島原名産の手延べそうめんです。ほとんどが職人の手作業によって作られます。
6束で1,000円ほどの高級そうめんとして全国の百貨店やギフトショップで販売されています。
悩みのタネ
しかし毎年秋になると悩みのタネが…。見せてくれたのは倉庫の中にあった大量の商品。
陣野一人取締役は、
夏場に売れ残った商品の在庫になります。
欠品を防ぐため多めに製造するのが食品メーカーの宿命。毎年、市場価格にして2,500万円分を超える商品を泣く泣く廃棄しているといいます。
値段を下げて販売をすると市場で自分たちの値段を崩してしまう。
それだけは避けたい。
株式会社シナビズ
[blogcard url="http://synabiz.co.jp/"]
そこに現れた一人の男性。在庫のそうめんを確認します。
すごいキレイですね。
賞味期限があと半年以上あるのにもったいないですね。
ぜひ買い取りをさせていただければ。
実はこの男性、こうしたメーカーの在庫を買い取るシナビズという会社の藤井厚執行役員。
シナビズは業者向けにBtoBのオークションサイトを運営しています。
メーカーから余った在庫や返品された商品などを買い取り、サイトでオークションに掛けてリサイクル店などに販売。
物によってはサイトを通さず業者と直接取引をしています。
扱うのは家電商品からアパレル、食品までさまざまです。
シナビズの特徴
そんなシナビズの大きな特徴は買い取り方にあります。
ご要望があればぜひお聞かせいただきたい。
メーカーからの要望を細かく聞くのです。
既存の販路とかぶらないこと。
もう一点は安い値段で市場に出回らないこと。
要望は「山一の販売ルートとかぶらないこと」と、そして「あまり安い価格で市場に出ないようにして欲しい」というリクエストでした。
この日、シナビズの本社では買い取った商品の検討会議が開かれていました。
商品によってその要望はさまざまです。
例えば雑貨メーカーから買い取ったアロマが楽しめる扇風機。
ネット販売はNG。
リサイクルショップをメインに販売しようと。
この他、サイトを見ると「住宅設備の業者限定」の商品や「海外で販売する業者限定」などメーカーの要望に合わせた売り先を見つけるのです。
ブランドリサイクルショップ キングラム
[blogcard url="http://www.kingram.co.jp/"]
そして、あの山一のそうめんを購入したのはキングラム箕面店でした。
ブランド品や貴金属を買取販売しているリサイクルショップです。
その運営会社が1万食を購入。条件のひとつ、山一の販売先とはかぶりません。
そして値段は、
良かったらお召し上がりください。
限定の販促品としてお客様に無料配布。安い価格で市場に出ないことが条件でしたが、無料だとブランド価値は下がらないのでしょうか?
シナビズの藤井取締役は、
処分価格が出回らないことを一番気にされていた。
ノベルティ(販促品)は価格が市場に出回ることがない。
ブランド価値の毀損はない。
一方、メーカー側の反応は…本音を聞くと、
下手に値段を付けて販売される方がどうかなと思う。
誰も損しない非常に良い選択肢と思っている。
値付け
そんなシナビズのもうひとつの特徴はサイトに出品する際の値付けにあります。
他社よりもリーズナブルな価格で出品できているといいます。どう決めているのか?
担当者が見ていたのは社内のシステム。ここに商品名や品番を打ち込むとこれまでネットで取引された平均価格が表示されます。
実はシナビズの親会社はオークション価格の比較サイトを運営。
過去10年分、約680億件のデータから相場にあった値付けが可能です。
2年前にこの事業を立ち上げた武永修一社長。
生産者である以上、破棄する商品は一定数出てくる。
ブランド価値が既存せずに最適な価格・タイミングで商品が売れるか事前に取り決めすることができるのが大きな強み。
オタメシ
[blogcard url="http://www.otame4.jp/"]
そんなシナビズが新たに立ち上げたのが「オタメシ」というサイト。
今度は一般消費者向けに企業の余った在庫を販売します。
そこにはある特徴があります。
実は購入金額の3%が慈善団体に寄付される仕組み。しかも寄付する先を選ぶことができます。
株式会社ちゅらら
[blogcard url="http://www.chulala.co.jp/"]
化粧品メーカー「ちゅらら」。
出品しているのはパッケージを変更する前の品質には問題のない在庫商品です。
寄付付きだったことがオタメシを選んだ理由のひとつだったといいます。
ちゅららのシニアマネージャー、齊藤光貴さんは、
売るにしても大きな理由付けがあった方が会社としても動きやすい。
さらなる可能性
オタメシは7月に開設後、売り上げは毎月倍々の勢いで増えています。
試算では22兆円の上るという企業の余った在庫。さらなる可能性があると言います。
22兆円、日本だけで。
全世界のGDPの数パーセントが毎年毀損しているの可能性。
終わりがない規模感がある。