[カンブリア宮殿] ブラックからホワイトへ!「働き方革命」最前線(1)

ブラックからホワイトへ!「働き方革命」最前線

五月女雅一さん

残業が当たり前の情報システム会社で「働き方革命」が起きているといいます。

そこに勤める五月女雅一さん。この日は金曜日の午後3時、外回りに向かうかと思いきや、なんと早々と帰宅です。まだ夕方の5時、この日は週に1回の早帰りの日です。夕食前に小学1年生の次男の宿題を見ます。

数年前まで、とてもこんな時間は持てなかったといいます。

五月女雅一さんの以前の働き方、金曜日は土日に仕事を残さないように決まって残業。帰宅はなんと午前2時。

それが今では午後6時半には一家団欒の夕食です。

その変化に一番驚いたのが妻のさおりさん。

考えられない。同じ会社にいるとは思えない。今の言葉で言うと「ブラック企業」。潰されちゃうんじゃないかと思っていた。

さおりさんが見せてくれたのは3年前、夫の会社のトップから全社員に送られた一通の手紙。

冒頭に「役職員ご家族の皆様へ」と書かれていました。

「一流企業」になるためには「家庭生活」を充実させることが大切です。職員の皆さんが健康であり続けるために、最大限の支援をします。(抜粋)

そこには、健康を本気で考える経営者の覚悟が記されていました。

さおりさんは、

こんな会社あるのかな、聞いたことがない。健康な社員がいるからこそ、業績アップという考え方を伝えてくれた。いろいろな不安を取り払ってくれた手紙。

SCSK株式会社

その会社は情報システム業界、第5位のSCSK株式会社。従業員1万1,000人の大企業です。

午後5時半になると、

「お仕事終わりですか?」

はい。

「仕事は残してないですか?」

はい。

以前は月100時間近い残業をしていたというシステム担当者は、

残業は月19時間くらい。

「少なくないですか?」

だいぶ減りました。

残業削減を仕掛けたのは、あの手紙の主。SCSK株式会社の相談役、中井戸信英さん(70歳)。

働き方改革の先頭を走る、いま注目の経営者です。

一流の会社は従業員を犠牲にして、ブッラク企業と言われて、残業をめちゃめちゃやらせて利益を出しても一流とは言わない。規模が大きくても、利益が出ても。世間で「あの会社は立派だ、いい会社だ」と「自分の息子や娘も就職させたい」「いい会社に勤めているらしいね」、それでいて成果も出せる会社。そのためには何なんだ。働き方。 

中井戸改革

中井戸信英さんの前職は住友商事株式会社の副社長。

2009年に小会社の住商情報システム株式会社の社長に就任。その後、同業の株式会社CSKと合併し、SCSK株式会社を作りました。

社員を激励しようと中井戸信英さんは社内を見て回りました。

だが、そこで衝撃的な働き方をめ目の当たりにします。

残業の問題。月50~80時間の人がいる。会社に寝泊まりしている人もいる。まともな仕事ができるのか。

そこで中井戸信英さんが取り組んだのが「残業半減運動」です。

残業を減らすため、まず社員に残業をしない日を申告させました。夕方、仕事を振ろうとしても「ノー残業」の札を出している人には振りにくい。

さらに会議は立って、しかも原則1時間など、ダラダラ仕事を徹底的に無くしていきました。

そして極めつけは、

賞与明細です。残業を減らして貰った報奨金。

残業を減らした分、報奨金としてボーナス12万円、上積みされています。

中井戸信英さんは「残業を減らせば『残業代』を出す」という前代未聞の策を打ち出しました。

社員の方は、

10時間くらい減った。残業を減らしてお金をもらえるのかと。

中井戸改革の効果はてきめん。残業時間はみるみる減っていきました。にも関わらず営業利益は、なんと6期連続の右肩上がりです。

今回は「さらばブラック企業!さらば長時間労働!」、働き方改革で社員も会社も幸せになる秘訣を教えます。

中井戸信英さん

村上龍の視点「なぜ残業削減で業績が上がるのか?」

有給休暇を増やして、残業削減すれば労働時間が極端に減る。どうやったら業績が上がるのか、僕は業績は下がると覚悟した。だけども、いずれは上がるんだと。自分が経営責任者の時に成就するか分からないくらいの覚悟をした。信念は、残業削減というのは、働くやり方、仕事の仕方、チームワークの取り方、段取りの構え方、心の持ち方を変えれば。非常に今までより少ない時間で同じパフォーマンスをあげられる。しかも肉体的・精神的な健康も向上するからクオリティーも上がり、アイデアも出るはず。基本的には生産性が上がるのだから業績はアップしていくはずだと。

「残業せずに朝の8~9時から夕方5時までに、この仕事をどうやって終わらせればいいか、従業員一人一人が自分で考える方が生産性は上がるということ?」

明らかにそう。

きっかけや施策や環境を提供するのが経営者の責務。「仕事けっこう回るじゃない」「身体もちょっと楽だね」「家に帰ったら奥さんもちょっと機嫌がいい」「子供と寝顔じゃなくしゃべれる」「なかなかいいね」と気付く。ここがものすごく大事なこと。後はある程度回る。その入り口がものすごく大事。

「残業や長時間労働が良くないというのは、ほとんどの働く人は理解していると思う。理解と納得は違う。」

村上龍の視点「残業削減の意味をどう納得させるか」

初めはみんな本気にしなかった。会社に寝泊まりして、寝袋を持ち込み、休憩所で寝て俺たちは頑張っている。であるがゆえに会社は回っているんだと。それで成り立っているんじゃないかと。それがルーティンになっている人にとって残業代は生活給の一部。残業を減らして自分の収入を減らす、仕事も回らない、プレッシャーがかかる、こんなバカげた話はないということになる。それをどうやって「いや、そうじゃないんだ」と、「ひょっとしたら、この施策に乗れば良くなるかも」と思わせるインパクトのある施策を考える。残業で浮いたコストを全額、従業員に返還する。初年度10億円くらい浮いた残業代を全部返還しましょうと。「本当にそんなことをしてくれるの?」「それだったら、ちょっと考えようか」、人間の本質はそういうもの。本質に踏み込まなきゃいけない、心にタッチしなきゃいけない。

異端過ぎるトップの信念

SCSK株式会社の始業時間は午前9時。

社員が出社するとまず行うのが万歩計を見て、昨日一日歩いた歩数をパソコンに入力します。

さらに「酒を飲んだか?」「歯を磨いたか?」「朝食は摂ったのか?」など会社が定める健康チェックについて答えていきます。

これは「健康わくわくマイレージ」という社員の健康管理システム。健康基準を満たしてポイントを貯めるのですが、ここにも中井戸信英さんの仕掛けがあります。

再びボーナスの明細を見せてもらうと「わくわくマイル支給分」と書かれています。金額は10万4,000円、羨ましい。

他にも羨ましいことがいくつもあります。

その一つが「マッサージルーム」。国家資格を持ったマッサージ師が常駐しています。20分500円からと格安です。

信念

これほどまでに社員の健康にこだわり働き方改革をすすめる中井戸信英さん。

その裏には半世紀に渡る仕事人生で培った揺るぎない信念がありました。

中井戸信英さんは1971年、総合商社大手の住友商事株式会社に入社。時は高度成長の末期、商社マンといえば花形で忙しい代表格。

しかし、そんな中で中井戸信英さんは一人、異彩を放っていました。

入社一年目、研修が終わったばかりの7月、中井戸信英さんは1週間の夏休みを取りました。すると休み明け、上司に呼び出されました。

「お前は一体何考えているんだ!新人のくせに1週間も休みを取るなんて生意気だ!」

納得できず、みんなの前でこう言い返しました。

おかしいじゃないですか!決められた休みを取って何がいけないんですか。

当時を振り返って中井戸信英さんは、

商社マンはモーレツ社員のイメージがあった。そういう考え方には馴染めなかった。その代わりやるべきことは後ろ指をさされないようきちっとやる。

妻の恵美子さんはは、

接待はほとんどなかった。毎日のように定時に帰ってきた。

ターニングポイント

働き方を考えるターニングポイントとなったのは入社3年目の1973年、ドイツへの赴任です。

ある日、中井戸信英さんは取引先のドイツのメーカーに電話を掛けました。

「日本の優れた商品を紹介したい。明日の夜、時間はありますか?」

すると相手は、「ダメだ、夜は家族と過ごす時間だから残業はしない。夕方までに話をまとめられるか?」

「分かりました。望むところです。」

決められた時間の中で高い成果を出すドイツ人と何かと波長の合った中井戸信英さん。次々と大口契約を獲得しました。

1996年にはアメリカ赴任。ITという新たな産業が起きつつあったシリコンバレーで若者たちの生き生きとした働きぶりを見て感銘を受けます。

彼らはすごく働くが残業まで追いまくられるのとは違う働き方。仕事はするがゆとりがある。

そしてSCSK株式会社のトップへ。働く時間を減らして生産性を上げれば業績は必ず上がる。

働き方改革

中井戸信英さんの信念を開発の現場はどう受け止めたのか?

チームの働き方改革を担ったシステム開発担当部長の領木康人さん。彼自身、多い月は180時間以上も残業をしていたか、かつてのモーレツ社員です。

最初は絶対にできないと思った。

難題を突き付けられた領木康人さん、長時間残業が慢性化していたチームの働き方を一から見直すことに。

これまでは担当者がシステムを開発し、納品直前にようやくテスト。だが不具合があったり、クライアントの新たな要望があるとその都度作り直し。この作っては直しの繰り返しが残業の温床となっていました。

そこで、領木康人さんは最初から複数の人間がチェックしながら作っていく方式に変えました。さらにクライアントや別部署の人間にも途中でチェックしてもらいます。この階段方式でムダな作り直しを減らしていきました。

すると、

作業時間が減ったにもかかわらず、営業利益率が確実に右肩上がり。効率が良くなったのが業績上も表れている。

クライアントとのパイプ役を務めるシステム営業担当の小山田多絵子さん。

向かった先は不動産会社の株式会社大京。システムの納入先です。

以前はクライアントを訪ねるのは数カ月に一度でしたが、今は2週間に1度。開発の状況を報告しながら先方の要望もチェックします。

株式会社大京の数原保一郎さんは、

計画にのっとった仕事をしていこうと。それはお互い様で、仕事のスタイルも変わった。

クライアントが意識を変えた裏には、中井戸信英さんの常識破りの手紙がありました。

弊社社員が休暇し取得できるよう、ご配慮頂けますと幸いです。

社員に休暇を取らせるために取引先にも協力を求めたのです。

これを受けて株式会社大京では、SCSK株式会社への発注の仕方を見直しました。

さらに自分たちも見習って残業削減に取り組み始めたといいます。

SCSKの取り組みのおかげで残業が月20時間を超えていたが、最近は3分の1くらいになった。SCSKと付き合いをした成果の一つ。

中井戸信英さん

小池栄子の疑問「『接待』は必要ない?」

必要な接待はやる。上司に連れて行かされる。当時は高度成長期の後半だったので2次会から5次会まである。「2次会に行け」と言われても、ほとんど上司を振り切って帰った。大体、2次会の中ごろから接待される方も覚えていない。それがまた「努力が足りない」「けしからん」と怒られた。

限られた拘束時間の中で誰にも後ろ指さされないよう、パフォーマンスを上げる。周囲をある程度、納得させる努力を振り返ればやってきた。

「日本の企業風土や常識とは違う人が、柔軟な発想ができて、目的のためにいろいろなアイデアが必要だと知る人しか、産業削減はできなかっったのでは?」

そのために経営者は何をすべきか。世の中で常識的とされていないところに踏み込んで従業員の心に触れる。「この人は本当に従業員のことも考えてくれている」と思わせる。私の「心に触れる経営」というキーワード。

最近ではプレミアムフライデーがある。きっかけ作りとしては一つの施策だと思う。「明日はプレミアムフライデーだから3時に終わる」。昼ごろからソワソワして早く片付けなきゃいけない。それがダメだと思う。結局、仕事のプレッシャーにしかならない。僕は「従業員ファースト」だと思う。今までは会社ファーストだった。

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