[ガイアの夜明け] 異変の夏・・・「激闘」シェア争い!(1)

異変の夏・・・「激闘」シェア争い!

麒麟麦酒株式会社

アサヒビール

食い倒れの街、大阪。連日の満員の立ち飲み屋「居酒屋とよ」があります。

この店で出すビールはアサヒのスーパードライ。約25年間、他の銘柄に変えていないそうです。

店主は、

スーパードライのどこが好き。キレがあってなんぼでも飲める。

実は大阪はアサヒビール発祥の地。地元の人達に深く根付いていました。

大阪でビールといえばアサヒ。絶対的な存在です。

布施孝之社長

7月12日、そのアサヒの牙城に宿命のライバルが降り立ちます。

キリンビールの布施孝之社長(57歳)。

暑いですね大阪。

大阪には2年いた。支社長をやらせてもらって。いい街ですよ、大好き。情に厚い町。

布施さんが入社したのは1982年。当時キリンは王者と呼ばれていました。

明治時代から続くラガービール。1972~1985年まで国内で6割を超える圧倒的なシェアを誇り、キリンはビールの代名詞でした。

しかし1987年、アサヒがスーパードライを発売すると2001年、シェアトップの座を奪われます。

シェアがどんどん落ちていく。危機感、悔しさは相当なものがあった。慢心というか、お客様に対する感謝の気持ちが、大きな支持をいただくと薄らいでいった。

2009年に大阪支社長だった布施さん、猛烈な巻き返しを図りキリンは再びトップの座に帰りました。

しかしNo.1はその年だけ。かつての栄光を取り戻せるのか?

異変の夏・・・激闘シェア争い!

打倒アサヒを大阪から、キリンが宣戦布告。関西中の営業マンが集結しました。

真っ黄色だね。

一番搾りがスーパードライを超える。

近畿圏の売り場を真っ黄色に染め上げる。

再びNo.1になりたい、かつての栄光を知るベテラン営業マンたち。

熱い戦いが始まります。

シェア変動を起こす、うねりを起こす。

一番搾り

6月5日、この日キリンはマスコミを集め大きな発表をしました。

主力商品「一番搾り」のリニューアルです。

見た目はほとんど変わりませんが、製造工程を見直し味を一新。雑味を取り除き麦の旨味を際立たせたといいます。

キリンビール横浜工場に工場見学に来た人は、

全然違う。コクがある。

普段飲めないが、飲めそう。

ビールの評論家、日本ビアジャーナリスト協会代表理事の藤原ヒロユキさんに試飲してもらうと、

古い一番搾りも完成されている。新しく変えるのは勇気がいる。もともと売れていたものだから。

なぜキリンは味を変えたのか?

業界を襲う逆風

理由のひとつが業界を襲う逆風です。若者のビール離れなどで出荷量などは12年連続で減っています。

さらにテレビCMにも異変が起きています。かつてビールのCMといえば「ゴクゴク」という音。アルコール依存症の人に苦痛を与えると2016年から使用を禁止しています。CMを放映できる時間帯も午後6時以降の夜間だけです。

そして2017年6月には国税庁による安売り規制の強化で値上げも行われました。

そんな状況の中、主力ビールのリニューアルはキリンにとって伸るか反るかの大勝負でした。

小畑義典さん

7月24日、大阪のキリンビール近畿圏統括本部。

入社12年目の営業マン、営業2部(スーパーマーケット担当)の小畑義典さん(35歳)。トップを走るアサヒにライバル心を燃やしていました。

お盆や年末、店に行くとスーパードライがメインで並んでいる。圧倒的にスーパードライがメインで展開されている。一番搾りが一番になりたい。

小畑さんは神戸大学経営学部を卒業後、キリンビールに入社。

最初の赴任地、新潟で主力スーパーを担当。売り場を仕切る権限をアサヒから奪いました。

その後、東京でも大手スーパーを担当。

2016年、激戦区の大阪に送り込まれたのです。

株式会社ライフコーポレーション

小畑さんが担当するのはスーパーマーケット「ライフ」。

関西に約150店舗を展開するキリンにとって最大の得意先です。

特に市内の中心部で国道沿いにあるライフ関目店はビール類の売り上げがトップ3に入る店です。

まさに大阪ビール戦争の最前線です。

売り場を覗いてみると、ズラッと並ぶアサヒのスーパードライに対してキリンの一番搾りはたった1列だけ。

関西ではスーパードライが44%のシェアを持つのに対し、一番搾りは15%。その差は圧倒的です。

スーパードライが売れている。これをひっくり返すのが会社で目指している姿。

兵藤智貴さん

7月25日、最高気温33度。

ビールが最も売れるこの時期、小畑さんが向かったのはライフの大阪本社。

チーフバイヤーの兵藤智貴さん、メーカーの新製品を吟味する仕入れの総責任者です。

新しい一番搾りの率直な感想をいただければ。

兵藤さんの判断がライフでのビールのシェアに直結します。

既存品から。

緊張で手が震えます。

既存のものと新製品、飲み比べてもらうと、

いかがですか?

変わったのは分かります。あまり変えすぎると今まで飲んでいた人が離れてしまう。これくらいの調整であればいいのでは。

ホッとした様子の小畑さん。

トップ奪還に向け幸先の良いスタートに見えましたが、商談後、バイヤーの兵藤さんに聞いてみると、

「スーパードライより一番搾りが増えることはあるか?」

今日の段階ではそこまで思っていない。いきなりそれが逆転するのは難しい。スーパードライは長年売れ続けている商品。そこを崩すのはそう簡単ではない。

東京隅田川ブルーイング

一方、長年シェアトップに君臨するアサヒ。

TOKYO隅田川ブルーイングは7月にリニューアルオープンした直営店。

主力のスーパードライは今年30年目を迎えました。

お客様のお目当てはできたての生ビール。

実は定番のスーパードライではなくクラフトビールと呼ばれるもの。

普通のビールは喉ごしで水みたいに飲める。コクがあって香りがあって美味しい。

クラフトビールは主に小規模な醸造所で職人が作るビール。

苦味が特徴の黒ビールや小麦を使った白ビールなど個性ある味が特徴です。

アサヒはこれまで、このレストランの中だけで作っていました。

この夏、10億円を投資して生産量をいまの5倍にします。

東京隅田川ブルーイングの安保昌俊社長は、

新しいビール文化を知らせたい。規模を追うというより価値を求める。

若い世代に人気のクラフトビール。ビールの未来を見据えた戦略でした。

キリンビール神戸工場

8月上旬、キリンの日本各地の工場では新「一番搾り」の生産が本格的にスタート。

店頭に並び始めます。

お盆用のチラシ

その頃、大阪。

小畑さん、担当するスーパー「ライフ」が出したお盆用のチラシを見ていましたが表情が冴えません。

売価かな。このタイミングでできることは提案した。

スーパードライの存在感が際立つチラシ。6缶パックの一番搾りが1,110円なのに対し、スーパードライは1,098円。

新「一番搾り」が市場に出る前にアサヒにしてやられました。

目標

8月21日、近畿統括本部の会議室にスーパーを担当する営業マンが集められました。

販売目標が未達のところがある。穴埋めのために何を考えている?

一番の得意先であるライフへの出荷量について7月は目標に全く達していませんでした。

これから新「一番搾り」でどう巻き返すのか?

担当の小畑さんは、

前年比150%を全員で目指すところなので、そこまではいきたい。

今の見込みだとなんぼいくの?

今の見込みだと2倍はさすがにいかない。

小幡さんは新「一番搾り」のリニューアルでこの夏の出荷目標を去年の2倍に設定していました。

しかし、あっさりと撤回。

厳しい視線を送る先輩がいました。田鍋雅弘さん(36歳)です。

2倍いくために何するの?

2倍いくために?

2倍じゃなくても150%いくために何するの? 数字気にしないの? 数字を気にしないで交渉はどうやるの?

数字に関しては言うことはなく。

小畑さんの言い訳を黙って聞いていた田鍋さん。

その日の夜、田鍋さんが居酒屋にやってきました。その後ろには連れてこられた小畑さん。

本当の会議が始まります。

覚悟が足らん!

そんなことではキリンはアサヒには勝てない。田鍋さん、想いをぶつけます。

10年後の会社を支えるのは俺たちの世代。今のまま10年後になったら下の子がついてこないでしょ。できない、知らない、やだ。そんなやつにリーダーをやってほしくない、だから厳しくしている。

やってないねん。お前、どんだけやっとるねん。やれや! できるやろ!

先輩の熱い言葉に小畑さん、涙が止まりません。

キリンの復活はなるのか?

決戦の日は近づいていました。

リベンジ

大阪で火蓋を切った夏のビール戦争。

シェアNo.1のアサヒ、追う2位のキリンは一番搾りのリニューアルで攻勢をかけます。

スーパー担当の小畑さん、キリンのエースでしたが7月の成績は最悪。

新「一番搾り」でリベンジを誓いました。

家族

兵庫県西宮市、家族と団欒をしても小畑さん、仕事のことが頭から離れません。

すごく責任の重い仕事をさせてもらっている。今まで以上に大きな壁にぶちあたっている。

お仕事頑張って!

頑張るよ!

麦汁

8月30日、新しいポロシャツに着替えた小畑さん、気合が入っていました。

シェア1位を奪い取る秘密兵器を携えていました。

向かった先はスーパーマーケット、ライフ関目店。

関西のライフでビールの売り上げがトップ3に入る店です。

売り場はアサヒのスーパードライが幅を利かせています。キリンの一番搾りは1列だけ。

小畑さんが持ってきたクーラーボックス、秘密兵器とは一体何なのか?

一番搾り麦汁と二番絞り麦汁。飲み比べてもらって一番搾りの良さを感じてもらいたい。

缶の中身は麦汁でした。

麦汁とは麦を煮て作ったビールの原料です。

一般的なビールは麦から2回、3回と濾過したものを使いますが、一番搾りは最初に流れ出た麦汁だけを使います。

原料の違いは分かってもらえるのか?

一番搾り麦汁と二番絞り麦汁、飲んでもらえますか?

まずは二番絞り麦汁から、

軽い感じ。

そして一番搾り麦汁。

全然違う。

一番搾りはこっちだけ使っている。ご存知でした?

知らん!

「普段はどのビールを飲んでいる?」

スーパードライ。今までずっと飲んでいるからそのままだけど、一番搾りを飲んでみたいと思う。

他のお客様も

甘みが濃い。

麦の甘みです。

アサヒのスーパードライに慣れ親しんできた関西の人たち、小畑さんはキリンのこだわりを地道に伝え続けました。

売り場の責任者、児島聡さんが様子を見に来ました。ビールの棚割りを決めている人です。

お客様の反応は上々でしたが、

スーパードライの壁は大きい。

小畑さん、このまま終わってしまうのか・・・。

9月1日、キリンビールの小畑さん、ライバルのアサヒより多くスーパーの売場を確保できるのか?

ライフ関目店はアサヒに対しキリンの一番搾りの売り場はたったの1列。

しかし、

当店で一番売れる場所を提供した。試飲会は店でやる機会がなかった。お客様が試飲しているのを見ると手応えを感じた。

売り場責任者の判断は予想外のものでした。

キリンの売り場の拡大を認めてくれたのたです。

しかも、ライバルのアサヒの商品を移動させても良いことに。

うれしい。これだけ展開できるのは。しんどいより嬉しいが勝る。

キリンの新「一番搾り」はレジに向かう途中の目につきやすい場所に、価格もキャンペーン中はスーパードライと肩を並べます。

この店でこんなに多く置いてもらえることは初めてのことです。

小畑さんの夏が終わりました。

しかし、本当の勝負はこれから。

シェアナンバーワンのビールに新・一番搾りをする。それまでやり抜く覚悟をもってやっていきたい。