文具メーカー「株式会社キングジム」って知っています?
会社の名前は知らないって人でも棚に並んでいるファイルや、文字入りシールが簡単に作れる「テプラ」なら見たことありますよね。
事務の王様だから「キングジム」.
年間売上330億円の上場企業。
儲かる事務用品作りを支えているんは地味な作業の数々です。
他社には真似できない独創的なアイデア文具を生み出す戦略とは?
業界の異端児「株式会社キングジム」の儲かりの秘密を探ります。
株式会社キングジム
[blogcard url="http://www.kingjim.co.jp/"]
宮本彰社長は38歳で社長になりました。
株式会社キングジムは宮本彰社長の祖父が設立して宮本彰社長は4代目の社長になります。
キングファイル
株式会社キングジムが誇る最大のロングセラー商品は書類などの整理整頓に欠かせない「キングファイル」。
1954年の発売以降、基本のスタイルはそのままに60年以上売れ続け、累計販売数は約5億冊・
松戸事業所
キングファイルがずっと売れ続けてリウのには理由があります。
その理由を探るために千葉県松戸市の松戸事業所に訪れました。
調達部企画課の羽田達也さんはキングファイルの担当を
13年やっております。ファイルのとじ具をずっと。
羽田達也さんはキングファイルの中でも特に内側で紙を止める「とじ具」の開発担当です。
キングファイルはとじ具だけで62年間に20回以上、細かい改良が施されています。
1964年、軽量化を目指して金属部分を大幅にカット、110gの減量に成功しました。
1975年には両開きタイプへ変更されます。下に入れた書類でも楽に取り出せるようになりました。
1999年にはとじ具そのものがファイルから取り外せる脱着式になります。分別ゴミに出しやすくなります。
いろいろと改良されているキングファイルのとじ具。
その改良の歴史で羽田達也さんがお気に入りの地味だけど画期的な改良が1996年の改良です。
ここの斜めになっている部分が変わっています。
それまで直角だったとじ具の角が少し斜めに削られました。
これはユーザーのことを考えた画期的なアイデアでした。
ファイルの表紙は、その分厚さのため折った時にどうしても内側が出っ張ります。
それまでのとじ具は、その出っ張りを避けてとじ具を設置していたので余分な隙間が生まれ、その分幅を取っていました。
とじ具の角を斜めにすることで、折り目部分が内側に移動して、とじ具と表紙の隙間が減少。
収納枚数はそのままにファイルの幅を左右合わせて8mm減少しました。
小さな変化に見えますが、これまで7冊しか置けなかったスペースに8冊置けるようになったのです。
テプラ
株式会社キングジムには会社を支える、もうひとつの儲かり大黒柱があります。
それが「テプラ」です。
好きな文字を打ち込んで、それをその場で簡単にシールにできる機械です。
テプラの責任者で商品開発部開発一課の堀井信之課長にどのくらい売れているか聞いてみると
テプラは1988年に発売されて以降、累計で900万台を突破しています。
累計販売台数は約900万台。
累計売上は3,000億円以上にもなります。
テプラの誕生秘話
テプラが発売されたのは1988年。
当時世の中には急速にワープロが広まり、株式会社キングジム社内でも
いつまでもアナログ文具だけじゃダメだ!電子文具を作ろう!
という話になっていました。
しかし
いきなりノウハウのないものに挑戦をしても勝算はないので、ファイルの背表紙の名前付としてラベルライターを考えました。
当初は主力商品、キングファイルの背表紙に貼る、ラベル用の機械として開発が開始します。
こうして生まれた初期型のテプラは当時16,800円もしたのにも関わらず「どこでも手軽にキレイな文字が貼れる」ってことでオフィスのマストアイテムになります。
中でもキレイ好きのOLさんたちに予想外の大好評になりました。
だったらと株式会社キングジムも様々なニーズに応えるテプラを開発します。
ラベルにミシン目が付いている簡単にファイルの見出しを整頓できる「インデックスラベル」やお子さんの名札に使える「アイロンラベル」、ホワイトボード用の「マグネットラベル」なんてものまで。
多彩な機能が凝り性女子のハートをがっちり掴みました。
新ラベル誕生の舞台裏
バンバン売れているテプラですが、新しいラベル誕生の舞台裏には知られざる地味な作業があります。
3台のテプラを並べて黙々とシールを貼る商品開発部開発一課の青田淳さんは
先月末に出たシールなんですが、いろいろな機種で実際に印刷を行って文字が欠けてしまったりしないかを確認しています。プリントして、切って、貼ってというのを繰り返します。
慎重には慎重を期して、新作ラベルが色んなテプラ本体で問題なく印刷できるか確認する作業です。
株式会社キングジムでは、ラベルを開発した班がチェックを担当します。
青田淳さんも自分達の班が開発した透明なラベルを紙に貼った状態で欠けている部分やかすれを細かく確認しています。
ラベルには7種類の太さがあるため、チェックに4時間以上と気の遠くなるような作業になります。
見ていただくとわかるかなと思うんですけど、「書」という字のちょっと上の部分、ドットが少し薄いかな…と。分かります?
分からないです。
本当に良く見ると文字の後ろにある小さな点のドットの濃さが違います。
テプラ本体の問題なのか、ラベルの問題なのか調査・報告します。
現在発売されているテプラのラベルは300種類以上。
新しいテプラが発売されると1から確認をやり直します。
年間に平均5種類の新しいラベルが追加され、その度にラベルを調べます。
宮本彰社長
なぜテプラ?
「TEPRA」が
Timely(いつでも)
Easy(簡単に)
Portable(その場で)
Rapid(すぐに)
Affix(貼り付けられる)
いつでも、どこでも手軽に貼り付けるという深い意味があります。
独創的な商品
事務用品の王様、株式会社キングジムのもうひとつの儲かりの特徴は世の中にない独創的な商品で勝負をしているところです。
テプラはもちろんですが、パッと開くだけですぐに用件を打ち込めるデジタルメモ「ポメラ」は累計販売数約30万台の大ヒット。
ノートに書いた内容をカメラで撮ればスマートフォンで管理できる「ショットノート」は累計販売数約500万冊とノートとしては異例のヒット商品です。
商品開発
どうして株式会社キングジムではこんな斬新なヒット商品を次々に発売できるのか?
訪れたのは東京都千代田区の株式会社キングジムの本社です。
商品開発部の亀田登信開発本部長によると、その戦略の一つが他社とは大きく違う開発会議にあるといいます。
課の中でミーティング、それから部内会議、部内会議で商品化を図ってみようとなったときには開発会議。大きくは3段階になっています。
株式会社キングジムの商品開発の会議は3段階。
第一段階の会議
アナログ文具担当の開発4課のミーティングでは各自がアイデアを持ち寄ります。
勝美泰介さんは
円周率ノートというノート。見た目は普通のノートなんですけど、よく見ると罫線が全て円周率で形成されている。
勝美泰介さんの発案は円周率ノート。どこまでも続く円周率を使用して罫線を引こうと考えています。
それに刺激されて
素数だけがひたすら続くノートとか、すごい好きだと思います。数学の人とか。
理科はH、He、Li、Beとか並んでいるみたいな。
どんどん話が広がっていきます。
「自分ならこうしたい」という意見が続々です。
株式会社キングジムの第1段階の会議はあまり否定せずに違った角度からアイデアを出し合う原則で進めます。
こうすれば、いけてないアイデアでも思わぬ商品に化けることがあります。
そして、このミーティングで反応が良かったものはコストなどの細かい部分を考え第二段階の会議に持ち込まれます。
第二段階の会議
商品開発部開発一課の山田智子さんは
考えた商品の企画について、ご意見をいただければと思い持ってきました。
山田智子さんの持ち込んだアイデアは?
緊張の面持ちです。
それもそのはず、第二段階の会議で正対しているのは商品開発部の安蒜康英部長と商品開発部トップの亀田登信開発本部長。
特に亀田登信開発本部長はあのテプラを開発した株式会社キングジムのエース的存在です。
プレゼンが開始されます。
靴ひもがほどけてしまって、困っているという意見がありました。商品としてはほどけやすい靴ひもの上から留められるクリップ。
山田智子さんたちがプレゼンするのは靴ひもクリップ。
ほどけやすいスニーカーの靴ひもを簡単に留められるクリップを考え出しました。
亀田登信開発本部長は
ブランドはキングジムブランド?
文具のクリップのイメージで「靴ひもにも付けられますよ」という展開をしたいなと思っています。キングジムブランドがいいと思います。
ひも靴ってかなり昔からあるじゃない?だから比較的出来上がり切ってるもの。そこの靴のメーカーでもないうちが後発で参入するのは苦労は多いけどリターンが少ない。
第二会議、部内会議で亀田登信開発本部長が判断するのはその商品がきちんと儲かるスキマを狙っているか。
スキマが大きすぎると大手が参入が入ってくる、スキマが小さいと商品が売れない。スキマにマッチしてても後発だと作っても儲からない。と厳しい判断基準です。
これを売ったら次は何がある?
そこまでも考えていなかったです。
ちょっとしたアイデア品なんて、いくらでも思いつくじゃない。でもそれってビジネスとは違うよね。これは無いな。
第一段階の会議で広げるだけ広げたアイデアを第二段階の会議で厳しくチェック。
このメリハリにこそキラリと光る斬新な商品を生み出す秘訣です。
山田智子さんは
周りに聞いたところ、いいじゃん!という意見が多かったので、どうやって売るとか考えずに持ってきたのが失敗だったかなと…またリベンジできたらなと思います。
第三段階の会議
厳しい部内会議を見事突破し、選び抜かれたアイデアが最終ステージを迎えます。
月に1度開かれる第三段階の「開発会議」。
この日のプレゼンは商品開発部開発二課の渡部純平さん。
どんな商品を会議に出しますか?
イヤホンの形をしためざまし時計を企画しています。
渡部さんが考えたのは目覚まし機能付きのイヤホン。
設定した時刻なるとイヤホンが振動して確実に起こしてくれます。
この会議に出席するのは全ての役員と「営業」「経営」「物流」など各部門の責任者です。
そして最後に現れたのが宮本彰社長。
商品化を決定する緊迫の会議がスタートします。
では開発コード「クズリ」。イヤホン付きバイブレーションアラームの上申をさせていただきます。
電車、新幹線、バスなど乗り過ごさずに安心して居眠りしたいだとか。
声が震えがちな渡部純平さんが商品を説明します。
すると宮本彰社長が
電車の中で音がしなくても目が覚めるからいいよっていう企画ですか?
そうです。周りに迷惑をかけないで自分だけが起きたい。そういう人のための企画となります。
そういう経験ってみんなあるのかな?俺はないんだけど…
意外に和やかなムードで会議が進んでいきます。
ニーズはすごくあると思います。、気付かれないように起きれるという。
ずいぶん皆さん前向きです。
10分後。
いいですかね?割と思ったより評判いいですね。はい、じゃあオッケーです。
オッケーになりました。
第三段階の会議では提案の9割以上が承認されます。
そんなに承認して大丈夫なのか宮本彰社長に尋ねると
売れるかどうかというのは疑問に思う商品が多いんですね。最後にこの会議で役員全員が一致して通したことによって仮に売れなくても担当者の責任じゃない。みんなが決めたことだから。そのための会議だと思っています。
スキマ狙いの株式会社キングジムの商品は10個に1個のヒットで上々。
大事なのはどの商品も力を合わせて売っていこうとするチームプレイの精神です。
たとえ売れなくても連帯責任。
だから失敗を恐れずに斬新な発想で商品開発に取り組める。
渡部純平さんは
かなり安心しました。ホッとしてます。
売れますか?
自信あります。