[ガイアの夜明け] ニッポンの「味」で世界の食を変える!(1)

ニッポンの「味」で世界の食を変える!

枕崎水産加工業協同組合

鹿児島県枕崎市。

9月8日、港の近くにある施設が大勢の人で賑わっていました。

人々が手にしているのは「かつお節」。

姿・形と魚質を見ている。あとは「枯れ具合」といって乾燥度。

煙で燻したあとにカビをつけて発酵させた「本枯れ節」と呼ばれる最高級品です。

枕崎市はかつお節の生産量日本一を誇る街です。

この日は年に一度の入札即売会が開かれていました。

ずらりと並ぶのは日本中から集まった問屋やメーカーの目利きたち。

そこにかつお節が次々に流れてきます。

中には水産庁長官賞や最高栄誉の農林水産大臣賞を取ったものもあります。

農林水産大臣賞を取ったかつお節は通常価格の約10倍、1キロ、3万3,000円の高値が付きました。

全国シェアの約40%を誇る枕崎市。

そんなかつお節の町に異変が起きています。

大石商店

港から車で5分ほどのかつお節工場、大石商店。

創業は90年前、20人ほどの従業員を抱える中堅のかつお節工場です。

社長の大石克彦さん(58歳)。

案内してくれた倉庫で眠っていたのは、競りに出ていた「本枯れ節」。

作るのに手間が掛かるため高価になります。

そのため近年はあまり売れなくなったといいます。

代わりに主力商品となっているのが燻して乾燥させただけのかつお節。

パックの削り節専用です。

こうした商品を安く大量に卸して経営を維持している工場がほとんどだといいます。

買う方も、例えば削り屋もメーカーも高いものだけを売るというよりもスーパーで安いものも売りたい。どんどん安い方へシフトしている。すごく厳しい状況が続いている。

枕崎市の現状

食の多様化や後継者不足も重なり、枕崎市の工場は最盛期150軒以上あった工場は48軒にまで激減。

こうした状況を打開するため枕崎の生産者たちが大胆な策に打って出ようとしていました。

ヨーロッパにかつお節工場を作り現地生産しようというのです。

乗り込んだのは美食の街、フランス。

ところが、そこには韓国などのライバルたちがひしめいていたのです。

日本が誇る伝統食材は世界に新たな道を切り開けるか。

その果敢な挑戦を追いました。

株式会社枕崎フランス鰹節

フランス北西部、ブルターニュ地方の町コンカルノー。

海に囲まれ、質の高い海産物が豊富なことからブルターニュ産の魚介類はブランド物として高い評価を受けています。

2016年4月、コンカルノーの町に枕崎の生産者たちがやってきました。

この地にかつお節工場を作ろうというのです。

構想から3年、計10社が出資して進める総工費3億円を超えるプロジェクトです。

800平方メートルほどの広さの工場には、これから様々な設備や機械が導入されます。

稼働すれば1日200kgほどのかつお節が生産可能になります。

このプロジェクトの発案者で株式会社枕崎フランス鰹節の社長に就任したのが大石克彦さん。

やっとここまでたどり着いた。どれくらい短時間でいいかつお節を作れるかが勝負になってくる。

それにしても、なせフランスにわざわざ工場を作るのか?

そこにはあるワケがありました。

パリのかつお節

食の都パリ。

この街でもいまや和食は大人気。

居酒屋風の日本食のお店「れんげ」。

開店前の仕込みを見せてもらうと、ちょうど出汁を取ろうとしていました。

店主の近藤克敏さんが倉庫から取り出してきたのは業務用の花かつお。

日本語で書かれていますが、ラベルを見てみると「韓国産」です。

ヨーロッパに出回っているかつお節の多くは日本と製法の違う韓国や中国のものです。

ここで扱っているいるものは大味。シンプルにかつおの味は出ているが、日本のかつお節の繊細さとか、香りがフワッと立つような感じは足りない。

実はEUには厳しい規制があり、日本のかつお節は輸入が認められていません。

パリのある飲食店。

実情を知ってもらいたいと店の関係者が取材に応じました。

これは高知、土佐清水のかつお。

なんと地下倉庫にあったのは、あるはずのない日本のかつお節でした。

パリ市内では個人輸入された日本のかつお節が出回っているといいます。

ベンゾピレン

EUが出しているかつお節の規制に関する資料。

規制対象になっているリストの中に「ベンゾピレン」という物質があります。

薪を焚いた煙で長時間燻して作る日本のかつお節には「ベンゾピレン」がついてしまうのです。

フランスだけで1,600軒ある日本食のお店。

満足な出汁が取れないのが現状です。

そこで大石克彦さん、フランスにかつお節工場を作ろうと計画しました。

これを機に和食店だけでなく、フランス料理のお店にも売り込みたいと考えていました。

試作用機械

鹿児島県枕崎市。

最大の課題はEUの基準をクリアするかつお節をいかに作るか。

フランスでの創業を前に試作用の新しい機械が届いていました。

日本の製法は薪で火を起こし、その煙でカツオを燻すというものです。

一方、フランスで使う機械は火を使いません。

特殊に加工した木材を電気で熱して煙を発生させ、「ベンゾピレン」の付着を防ぐのです。

煙の量をかなり減らしてやらないとEUの基準があるから。煙をやる時間を何時間にすればいいのか。

カギとなるのは温度と時間、そして煙の量です。

様々な大きさのカツオひとつひとつに番号を振り、それぞれ条件を変え何度もテストを繰り返します。

5日後、乾燥が進んだものをいくつか試しに削ってみることにしました。

果たして・・・。

やっぱり色が悪い。この色じゃない。

従来の製法のかつお節が薄い茶色をしているのに対し、今回のものは色が濃く焦げたようになっています。

仮に袋に入って置いてあって、同じ値段で、だったらどれ買います?

すでに中国や韓国製が出回っているヨーロッパ。

日本品質に何とか近づこうと試行錯誤を続けます。

インド洋のカツオ

6月上旬、フランス・カンコルノー。

大石克彦さんがやって来ました。

この1年、10回は日本と行き来しています。

訪ねたのは1軒の漁業会社。

コンテナに載せられ出てきたのは冷凍のカツオです。

大石克彦さん、フランスで使用する原料のチェックに来たのです。

日本のカツオが太平洋産なのに対してフランスのカツオの多くがインド洋産。

同じカツオでも肉質が大きく違うといいます。

すると大石克彦さん、一本カツオを抜き出しました。

それを包丁で削り始めたのです。

ここに黒い筋が出る。こういうものは脂が少ない。きれいな色をしていると脂が多い。

かつお節の出来には脂の量が大きく関係してくるといいます。

表面に黒い筋が出ているのはアウト、脂が少ない証拠です。

実は脂が少ないほうがいい出汁が取れるといいます。

様々なサイズを調べた結果、インド洋のカツオは脂の少ないものが多く、かつお節に向いていました。

かつお節の試作

1ヵ月後の7月中旬。

工場が無事完成しました。

そこには現地で雇われたフランス人の姿がありました。

大石克彦さん、インド洋のカツオを使ってフランス人のスタッフとかつお節の試作に取り掛かりました。

捌いたら2時間ほど茹でます。これは日本と同じ。

茹で上がったらカツオを背と腹側に分けて1本1本、手作業で骨を取り除いていきます。

そしていよいよ燻して乾燥させる作業です。

果たして日本と変わらない品質を再現できるのか。

仮に出来が悪かったとしても、それは将来のプラスになる。どちらにしろ早くあがってくれと祈っている状態。

6日後、燻しと乾燥の工程が終わりました。

気になる出来は?

結構入っている、火は。香りはいい。

乾燥の具合や香りはいいようです。

どういう色かな。

気になるのは、やはり色です。

早速、機械で削ってみることに。

出てきたのは

最高。全然違う。これなら日本のものと変わらない。これだったらいい。

日本での試行錯誤の甲斐あり、見事淡い茶色が再現できました。

その出来上がったかつお節を持って大石克彦さん、ある場所へ向かいます。

世界にかつお節を広めるための勝負に出ます。

パリのシェフ

9月下旬、パリ。

訪ねたのは知り合いのシェフのお店。

エリック・トロシェンさんは日本の人間国宝に値するといわれるMOF(国家最優秀職人賞)を持つ料理人です。

大石克彦さん、エリック・トロシェンさんに仲間を呼んでもらいかつお節を売り込もうと考えたのです。

早速、削りたてを食べてもらうことになりました。

皆、星付きレストランで働くシェフたち、その評価は?

削りたてだからでしょうか、香りが高くて、とても風味がありますね。

大石克彦さん、他にも「薄削り」のタイプや、細く糸のように削った「糸削り」、より濃い出汁が出る「厚削り」など様々な製品を用意していました。

実際に出汁を取って飲んでもらうことにします。

一流のシェフばかり、かつお出汁のことも知っています。

このシェフたちに認められれば日本品質のかつお節が一気に広まるきっかけになるかもしれません。

これは面白いな。

魚の風味がして本当に興味深いです。すごく創造性をかきたてられますね。うま味が舌に残って心地良い。とても繊細な素材ですね。

好感触。大石克彦さん、一安心です。

翌日、早速エリック・トロシェンさんがかつお節を日替わりのメニューに取り入れようとしていました。

用意したのは圧削りからとった少し濃い目の出汁。

合わせるのはフォアグラです。

フォアグラを茹でたキャベツで巻き、生マッシュルームをスライスしたものを添え、かつお出汁をかけます。

最後に糸削りをトッピング。

フレンチを代表する食材フォアグラと日本のかつお出汁が融合しました。

注文したお客様へ出されます。

その反応は、

何これ? 経験したことない味だわ。

組み合わせがとてもいいね、完璧だよ。

エリック・トロシェンさんは

新しい絵の具を手に入れたかのようです。これからもどんどん自分の料理に取り入れていきたいですね。

フランスに渡った日本品質のかつお節。

異国の地で新たな歴史を作ります・

日本食に広がるのはそうだが、いずれヨーロッパ全体に、いろいろな料理に使われればいい。それが何年後になるか分からないが、まずは第一歩。

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