中国の大気汚染について。
中国ではこの問題を2018年の最重要課題の一つと位置付け環境対策に力を入れ始めました。
しかし急激な政策変更は経済をも揺るがしかねない異常事態を引き起こしています。
PM2.5改善の裏側
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中国の首都、北京。
今、ある異変が起きています。冬なのに青空が広がっているのです。
大気汚染が深刻なときはクルマは昼間でもライトを付けて走るなど汚染が進み、外出の際にはマスクを付けるのが当たり前でした。
今年はその様子が一変、公園では運動を楽しむ人も多く目につきます。
空気は新鮮だし快適、去年よりずいぶん天気が良い。
天気が良いので外に孫を連れ出したの。
2017年12月の北京のPM2.5の濃度は1年前に比べ66.9%低下しました。
その理由は2017年10月の中国共産党大会。
大気汚染対策を実施し続け、青空を守る戦いに勝利する。美しい自然を回復させないといけない。
習近平国家主席は中国のすべてを決める最重要会議、共産党大会でこう宣言しました。
指導者の大号令に政府は対策実施のスピードを上げています。
特に汚染がひどい北部の28の都市ではPM2.5が出やすいとされる石炭の仕様を禁止し、天然ガスへの切り替えを急いでいます。
「ガスが来ない」村の戸惑い。
しかし、あまりに急ピッチに進む政策についていけない地域も…。
保定市の石炭から天然ガスに切り替えるように政府に命じられた村。
外壁には真新しい天然ガスの管が設置されていました。しかしよく見ると管はつながっていません。
外の壁には何かあるけどガスは来ていない。
広範囲に渡る天然ガスの改修工事に地方政府の手が回っていないのが実情。
庭の片隅には使ってはいけないはずの石炭が…。マイナス10度近くまで下がるこの地域、今も1日に3回、石炭を燃やして暖を取っていました。
子供が凍えないようにしないと石炭以外に燃やせるものはない。
苦渋の選択。村ではこっそり石炭を使っていました。
石炭の使用を禁止する強引な政策に市民から不満が噴出。
政府は12月に緊急通達を出しました。
ガス工事が終わっていない地域に限り石炭で暖を取ることを認める。
なぜ?タクシー大行列のワケ
青空を守るための政策、歪みは他にも…。
中国北部の都市、石家荘市。
午後9時、クルマを走らせていると目についたのはタクシーの長い行列。
40台を超える列の先にあったのは圧縮天然ガスと書かれた看板。
なぜ並ぶか?天然ガスを入れるためだ。天然ガスがないんだ。
天然ガスを入れるのに1日3~4時間並ぶ。1日中ガスを探しているよ。
実は多くの地域で石炭から天然ガスに切り替えたために天然ガスが不足しているのです。
この地域のタクシーのほとんどは天然ガス車。入荷したとの情報があると夜でも車が列をつくるのです。
工場閉鎖で相次ぐ失業
市内から来るまで約1時間、この地域は中国国内有数の陶磁器の生産地です。
ある工場を訪ねました。
影響は大きい。この辺りの工場は全て止まっている。天然ガスが高すぎる。
瓦などの陶磁器を作るためには長い時間、安定した火力が必要。
燃料となる天然ガスを大量に使うのです。
実際、中国国内の天然ガスの卸価格は2017年の秋以降、上昇の一途を辿っています。
炉に火を入れるにも1日数十万円かかる。工場を動かす勇気はない。
工場を停止したのは2017年10月、かつて300人が働いていた作業場には人の気配がありませんでした。
たくさんいた作業員も皆、職を失った。工場は開かないのに何をすればいい、失業だよ。
この工場で働いていたという作業員を訪ねました。
今は家で休んでいる。
「収入は?」
ない。
月収3万5,000円が、手に入らなくなりました。
家には天然ガスが来ていますが、高いので使っていないといいます。
天然ガスは高いし、色々費用も上がった。収入はないし、生活に影響が出ている。
2人の子供も家の中でコート無しではいられません。
環境政策は悪くない。空を見上げれば良くなった。でも、私たちは収入がなくなった。政府が仕事のほうも工面してくれれば一番良いのに。
この地域では陶磁器を作る企業が24ありますが、天然ガスの高騰を受けてほとんどが生産を停止しているといいます。
民間と企業における天然ガス不足の問題。
政府が売った手は、
民間用と企業用の天然ガスの需要を同時に満たすのは難しい状況。民間用を第一に考える。
政府はエネルギー大手に対し、企業への供給を減らし住宅の暖房など人々の生活に回すように通達を出しました。
環境対策で景気減速?
このような状況に専門家のSMBC日興証券の中国担当シニアエコノミスト、肖敏捷さんは、
短期的には景気を減速させる一つの要因になる。環境規制を強化したことで鉄鋼、科学、レアアースなどなどすべての業種で影響を受け、中国経済の悪化につながるとみている。