社会医療法人 愛仁会 高槻病院
[blogcard url="http://www.takatsuki.aijinkai.or.jp/"]
大阪・高槻市にある高槻病院。
高齢化が進む中、近年増え続けているある手術が行われようとしていました。
医師たちのそばには工具にも似た医療器具が用意されています。
膝に痛みを感じる患者に人工関節を入れるのです。
最も使われる道具はドリル。
年間360件もの手術を手掛けるベテランの整形外科、平中崇文診療部長。
今の医療用ドリルは非常に扱いにくいといいます。
約2時間かけて手術は無事終わりました。
なかなか切れないとか、入らないとか、ここに入れたいけど途中で滑ったり、正確にここに当てたいと思ってもずれてしまったら、間違ったところに開いてしまう。
そんな平中崇文診療部長の元に、この日、あるドリルメーカーが訪ねていました。
開発中の新しいドリルを是非使ってみて欲しいというのです。
まずは従来のドリルで骨を再現した模型に穴を開けてみます。斜めの方向から開けると骨の表面で滑ってしまい、うまく入っていきません。
骨折の治療で折れた骨同士をつなぐ時など斜めから穴を開けないといけないことも多いそうです。
そんな時、医師たちはまず垂直にドリルを当て削れ始めたところでドリルを斜めに倒して開けていきます。
斜めに入れる。変に倒し過ぎたらドリルが折れてしまう。
考えてみたら非常に怖いことをしている。開けたのを無理やり倒すから、穴も広がるし。
今度は開発中だという新型のドリル。
これすごいね。
食いつきが違う。
この新型のドリルに医師たちは興味津々の様子。
株式会社ビックツール
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名峰大山が見下ろす鳥取・日吉津村。
ここにあのドリルを開発している会社があります。
株式会社ビックツールは創業から36年、従業員は60人の中小企業です。
実はここ金属に穴を開ける工業用のドリルが専門。
主力の商品が「月光ドリル」。
特徴は先端部分の三日月状の切れ込み。名前の由来にもなっています。
従来のドリルにはなかった形状で特許を所得。
三日月状の切れ込みを横から見ると小さな溝が掘られています。
先端部分に小さなスコップが付いていると思ってもらえれば。このスコップでかき起こせる、それが大きな特徴。
発売から4年、この独自のドリルがいま全国に広がり始めています。
株式会社エヌシー・テック
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月光ドリルを一月前から使い始めたという群馬県の町工場。
厚さ6mmのステンレスに穴を開ける作業で使われていました。
従来のドリルと比べると穴を開ける速さは約2倍、作業の効率が大幅にアップしたといいます。
また従来のドリルでは切屑がバラバラに飛び散っていました。しかし、月光ドリルでは切屑がつながって出てきます。これは金属がキレイに削り取られている証拠だといいます。
切り口も断然キレイ。
なんで今まで月光ドリルのことを知らなかったんだろうと。結構、衝撃を受けた。
歯科医
その月光ドリルを今度は葉の治療にも使いたいという依頼が。
現場の歯科医が困っていたのです。
それは直径2mmの世界。
究極のドリル。
町工場で生まれた技術が医療の現場を変える。果たして医師と患者を救えるのか?
尾﨑クリニック
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大阪市。
ビジネス街に開業する尾﨑クリニック、歯のインプラント治療で定評があります。
患者にインプラント手術の内容を説明をしているのは尾﨑雅征院長。
歯科インプラントは顎の骨にドリルで穴を開け、人工の歯を埋め込むという治療。
一番大切なのは、正確な位置、正確な深さにインプラントを入れる。
インプラント手術で使う一般的なドリル。
顎の骨にどのように穴を開けるのか見せてもらいます。
しばらく掘り進めると、
水をこの先にかけないといけない。熱が出るから。
穴を開ける時、摩擦の熱が高すぎると骨の壊死につながるため水をかけるのです。
しかしドリルが見えにくくなり手術の時間も長引くといいます。
尾﨑雅征院長、患者さんに負担をかけないためにも新たなドリルの開発を望んでいます。
発熱を抑えることができる画期的なドリル。一番欲しい。
株式会社ビックツール
3月雪が残る大山を望む鳥取・日吉津村。
ここに尾﨑雅征院長と協力して歯科用ドリルを開発している株式会社ビックツールがあります。
開発担当者がチーフエンジニアの手嶋智さん(42歳)。
鋭い切れ味で評判が広まっている月光ドリルの生みの親です。
手嶋智さん、この日は整形外科用に続く、歯科用ドリルの開発に向けた会議。
患者さんの負担もドクターの負担も軽減されるということで「熱を抑えてほしい」と言われている。
削る際の摩擦による発熱を従来のドリルよりも抑える。難しい課題です。
しかも工業用ドリルの大きさと比べると整形外科用、さらには歯科用とだんだんと小さくなっていきます。
手嶋智さんにとっても大きな挑戦。
究極にもっていく。「究極のドリル」ですね。
早速、開発に取り掛かります。
取り出したのは過去に施策したドリルの設計図。
先端の角度や溝の角度など参考にしながら歯科用の月光ドリルを設計していきます。
鳥取県産業技術センター
[blogcard url="https://www.tiit.or.jp/"]
3月下旬、手嶋智さんたちが向かったのは鳥取県産業技術センター。
医療用となるドリル。極めて精度の高いデータが求められます。
この日は手嶋智さんが設計した試作品を持ち込み発熱テストに臨みます。
まずは従来の歯科用ドリル。どれくらい発熱するのか。
熱を感知するカメラをセット。
切削開始。
画面は赤くなり、内部の温度が急速に上がっていくのが分かります。体温を超える39.1度まで達しました。
熱がどんどん外側に伝わっていく。これが「顎の骨」の壊死につながる。
次は手嶋智さんが施策した月光ドリル。回転数など条件は同じにして測定します。
果たして結果は?
温度は徐々に上昇。
29.9度。従来のドリルより10度近く低い摩擦熱です。
ところが、
実際には下がっているが、まだこれでは満足できない。
水を完全に使わなくて済むように摩擦の熱をもっと抑えたい。
目をつけたのはドリルの回転スピード。
いま迷っています。1分間で500回転か700回転か。
回転数を下げれば摩擦の熱は抑えられます。その反面、骨を削る時間は長くなってしまいます。
どうすればいいのか…。
手嶋智さん
仕事場に戻った手嶋智さん、ドリルの形状からもう一度見直し始めました。
手嶋智さんは地元の工業高校から土木関連の設計会社に就職。9年前に株式会社ビックツールに転職しました。
それ以来、ドリル一筋です。
回転数を下げても切れ味が落ちない究極のドリル。
相反する条件をどう両立させるのか。
手嶋智さん、アイデアが浮かんだようです。
先端を鋭くして、ねじれ角を強くする。
コンマ単位で角度を変えることで切屑が出やすくなりこもった熱をさらに早く逃がせるといいます。
思いついたらすぐに試作。
ドリルを削り出す機械に慎重にセットします。わずかな軸のブレも許されません。
削り出しの時間は約1時間。
直径2mmのステンレスの棒が手嶋智さんの設計通りの形になります。
できました。
研究に6ヶ月。その後の2ヶ月間で施策したドリルは60本以上に上りました。
「手嶋さんはドリルが好き?」
ドリルが好きなわけではない。お客様であったり、先生に喜んでもらうのがただただうれしい。「何とかしましょう」と、「今の医療用のドリルの問題を解決しましょう」と、そういう思いでやっている。
尾﨑クリニック
大阪市。
そこに鳥取からやってきた手嶋智さんたちの姿がありました。
訪ねたのは歯科医の尾﨑雅征院長。
現場の医師と町工場のタッグがどんな成果を生んだのか?
改良を重ねてきたドリルを試してもらいます。
いきますよ。
その時でした…。
先生、一つお願いがある。回転数を500回転以下でお願いしたい。
歯科用ドリルの回転数は通常1分間に1,200回転以上。
手嶋智さんはその半分以下のスピード、500回転を指定したのです。
果たして計算通りうまくいくのか?
町工場の実力が試されます。
すごいね。いいですね。吸い込まれるような感じ。切れ味がいいということは熱を発生させないことにつながる。回している時間、押している時間が、あまり長いと骨壊死を起こすので。
回転数を落としても鋭い切れ味を保つことができたようです。
これで従来のように水で冷やす必要もなくなり、格段に使いやすさが増します。
尾﨑雅征院長、手嶋智さんが予想した以上に満足の様子。今後、患者さんのためにも実用化を急ぎます。
日本骨折治療学会
東京・新宿区。
整形外科医など4,500人が所属する日本骨折治療学会が開かれていました。
会場には医療機器を取り扱うメーカーがブーズを出展。
その奥が海外メーカーです。
その中に、株式会社ビックツールの手嶋智さんの姿もありました。
医師たちに整形外科用の月光ドリルを売り込んでいました。
手にとって試してもらうと、
これが出てくると差がはっきりしているから、あっという間に全部これになるのではないか。
整形外科用の月光ドリルは10月、医療機器として正式に登録されました。
今後は国内だけでなく、海外での販売を目指します。
我々は決して大きな企業ではないが、そういう企業であったとしても、ものづくりの精神と技があれば世界を制せるんだと示したい。
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